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子ども驚かせるリアリズム メカデザインの〝レジェンド〟 宮武一貴さんに聞く 福岡市美術館「日本の巨大ロボット群像」展 松本零士さんとの思い出も【インタビュー】

2023/10/03 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 今年は「鉄人28号」のテレビアニメ放映から60年。巨大ロボットの歴史をたどる展覧会「日本の巨大ロボット群像」が11月12日まで福岡市中央区の同市美術館で開かれている。話題の一つがアニメや小説などのSF作品で数多くのロボットデザインを生み出してきた「スタジオぬえ」(東京)のイラストレーター、宮武一貴さん(74)制作の「巨大絵画」だ。「マジンガーZ」「機動戦士ガンダム」「超時空要塞(ようさい)マクロス」などを手がけた“レジェンド”に、これまでの作品や新作に込めた思い、「宇宙戦艦ヤマト」などで創作を共にした漫画家・松本零士さん(北九州市出身・2月に死去)の思い出を聞いた。 
                              (大田精一郎)

宮武一貴さん

 宮武さんは1949年、神奈川県横須賀市出身。幼い頃、祖母と港でスケッチをしていると通りがかりの漁師から「坊やの絵は見たこともない船だけど走るね。おばあちゃんの船は沈むよ」と言われた。「何かを見た通りに描く発想がなかった。僕の船は立体で水に浮く形をしていたらしい。祖母はすごく悔しがっていた」

 小学1年の時、自衛艦「はたかぜ」の体験航海に祖父と参加した。「艦首から艦尾まで見渡す限り鉄の壁。艦体に触るとビリビリと振動していて『生きた艦』の鼓動だと感じた」。家で絵にしようとしたが船体が紙に収まりきらずリベットなど細かい部分しか描けなかった。「今思えばこれが巨大メカとの出合い、デザイナーへの目覚め。横須賀に生まれたのが運命でした」と振り返る。

 転機は映画「2001年宇宙の旅」(68年公開)を見たことから。「この作品に出合わなければ植物学者か生物学者になっていた。プラスの意味で疑問の塊だった」。観客を圧倒した宇宙船「ディスカバリー号」のデザイン。クラークの小説の中では描写がある長い放熱板が映画にはない。資料を集めて研究し、監督のキューブリックが「観客が放熱板を宇宙では不要な翼と勘違いするのを避けて意図的に外した」ということに思い至った。「作品世界のリアルと科学のリアルをどう評価し、どう描くのかという大切なことを映画から学んだ」

 この頃から本格的にイラストを描き始め、研究のために参加したSF大会などを通じてできた仲間たちと72年にデザイン会社「SFクリスタルアートスタジオ」を設立。同社は2年後に「スタジオぬえ」となり「宇宙戦艦ヤマト」のデザイン協力や後に「ガンダム」のモデルとなる「機動歩兵」が登場するハインラインの小説「宇宙の戦士」の表紙や挿絵を手がけ世界的にも存在感を高めていく。

内部の透視図がロボットを「リアル」な存在にする
©AIC ©AICライツ ©スタジオぬえ  ©創通・サンライズ ©永井豪/ダイナミック企画  ©東映 ©光プロダクション/敷島重工  ©光プロ/ショウゲート ©1982 BIGWEST

■メカデザインの仕事
 会場に展示されている「マジンガーZ」の透視図を例にメカデザイナーの仕事を聞いた。「豪ちゃん(原作者の永井豪さん)の『かっこいい内部図解を書いてよ』という一言から始まった絵」だ。

 「一枚の絵で子どもに『これが本物か』と驚くリアリズムを感じさせることが僕の仕事。『光子力エネルギー炉』だけでは伝わらない」。たった一つのパーツでいい。子どもに分かりやすい身近なメカは何かと考え、思いついたのが「オートバイのサスペンション」だった。「脚部にコイルスプリングとリンク機構を描いた。『これなら歩くぞ』とより強く伝えることができた」

 一枚の透視図で子どもたちは巨大ロボットが二足歩行する荒唐無稽な世界を受け入れる。「みんなが求めているものは何なんだろう。ぼやけたその正体を見つめ、突き詰め、理解できる形で表現する力がこの仕事には必要なんですね」と力を込めた。

展覧会の目玉作品「巨大ロボットを巨大に描く-1970年代編-」(宮武一貴・2023年)。
会場で大きさを確かめてほしい

■「神話的」世界に挑む
 今回の展覧会の目玉が、宮武さんが書き下ろした幅約5・8メートル、高さ約2・6メートルの作品「巨大ロボットを巨大に描く―1970年代編―」だ。5月から横須賀美術館に20日間通い続けて完成させた。

 宮武さんもかかわった「マジンガーZ」「ライディーン」「コン・バトラーV」というデザイン的にも物語的にもロボットアニメの革新をもたらした3体を描いた「神話的」ともいえる壮大なスケールの作品だ。「マジンガーZは漫画で『神にも悪魔にもなれる』というせりふがある。ライディーンはもともとは神像。5機のメカが合体するコン・バトラーVはテクノロジーの象徴。真ん中に描くことで神話の時代から現代への時間の流れを表現した」と語る。

 妻の智子さんもイラストレーターで表現者として尊敬し合う間柄だった。ある時「あなたにはまだやり残していることがあるんじゃない。まだ死んじゃ駄目だからね」と言われたことが心に残った。その後、2021年に自宅が火事に遭い宮武さんは重傷を負い、智子さんは亡くなった。

 「この絵を描きながら何度も妻の姿が目に浮かび、この言葉が思い出された」と振り返る。智子さんを身近に感じ、経験したことがない大型作品と向き合い、体力的、気力的な限界を乗り越えて描き上げることができた。特殊な塗料を使用し、角度によっていろいろな光が浮かぶ新たな技法も投入した。「確かにこの絵には時代を超えて伝わっていく命が描かれているような気がします」と笑った。宮武さんは現在「1990年代編」の制作に挑んでいる。「やり残していること」はまだまだある。

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SFデザインの革新をもたらした松本さん(2016年撮影)

「最高の美術家だった」 松本零士さんの思い出
 松本さんはヨーロッパ的というか、さらに北のスラブの美意識をお持ちでした。特に「銀河鉄道999」のメーテルにその傾向がよくでています。松本さんが描かれた「宇宙戦艦ヤマト」のガミラス文化のデザインを見てその迫力と美に心を打たれました。漫画家という枠に収まらない最高の美術家でした。

 とにかく絵を見て勉強させてもらおうという気持ちで仕事をしました。ヤマトの艦体の長いスロープ形状。これは城だと思いました。熊本城のような日本の城の形だと。西洋的な軍艦と城という日本的な形が呼応し合いヤマトが生まれました。

 映画「さらば宇宙戦艦ヤマト」(1978年)の時のことです。アンドロメダ(地球防衛軍旗艦)のデザインを任された時、二つの波動砲と艦体全体のデザインはうまく決まりました。でもブリッジ(艦橋)の形が艦の個性につながっていないと感じたのです。これでいいのか。どうしても自分で答えを出せませんでした。

 松本さんに聞くしかないと自宅を訪ねました。松本さんは僕の絵を5分ほど見つめ「わかった」と鉛筆を走らせました。「ほらできた」と見せられるとトップが扇形のブリッジに変わっていました。2、3分のことでした。

 「あとは君のデザインだから」。あっと思いました。松本さんが手を入れたことで艦全体の形がまとまり、印象が一変しました。この短い時間で僕の中にくすぶっていた形を見事に引きずり出してくれたんです。松本さんのクリエーターとしての直感力のすごさに驚きました。亡くなられたと聞いて本当につらかったですね。いろいろ導いてくださったこと、今も感謝しています。

=(9月30日付西日本新聞朝刊に掲載)=

展覧会「日本の巨大ロボット群像」 
11月12日まで福岡市中央区の市美術館。西日本新聞など主催。観覧料は一般1600円、高大生800円、小中生500円、未就学児無料。月曜休館(10月9日は開館し、翌日休館)。同館=092(714)6051。

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