特別展「若冲、琳派、京の美術ーきらめきの細見コレクションー
2026/04/21(火) 〜 2026/06/14(日)
九州国立博物館
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木下貴子 2026/04/29 |
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大分を拠点に、九州はもとより全国区でも活躍する画家・北村直登さん。大分はもちろん、福岡でも福岡市動物園のキービジュアルを手掛けるなど、その知名度と人気が上昇中のアーティストです。
その北村さんの福岡初となる個展「画家という生業」がONE FUKUOKA BLDG.(以下:ワンビル)にて4月24日に開幕しました(5月10日まで。詳細はこちらから)。多様な線、多彩な色によって描かれた生き物たちは、まるで今にも動きそうな息遣いをも感じる迫力です。
気になる展覧会の内容について、また制作について北村さんにお話をうかがいました。
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―人々が行き交うロビーでの展示で、通りがかった人たちも入りやすい、それでいて作品ともしっかり対峙できる会場構成だなと感じました。
北村:作家目線で言うなら完全密封された空間の方が作品を観てもらいやすい環境だと思います。でも路上制作からはじまった経験から言うと、通り過ぎてしまうだけの人でも何かしら目に引っかかったり記憶に残ることはわかっているので、今回のようなパブリックな場所で展示をすることによって、次に別の場所で僕の作品を見る機会があったときに「あっ!」って思う瞬間が必ず生まれます。そういった一つひとつの積み重ねが大切だと思っているので、結果をすぐに数字や状況で見るのではなく、新しい場所で見てもらえることの意味を考えつつ作品も見やすい展示構成を提案させてもらいました。
―春日市のご出身で天神にもよく遊びに来られていたそうですが、この馴染み深い天神の中心にあるワンビルでの展示、さらにその1周年のキービジュアルを担うことのお気持ちを教えてください。
北村:大分に住み、大分で活動している身としては、福岡で活動することの意味ってすごく大きい。特に福岡は国内外からたくさんの人が押し寄せる場所なので、その中で僕が観光資源になりえることが作家として一番目指したい形です。長期的な視点にはなりますが、たとえば福岡に来た人が大分にも来る、あるいは長崎まで行くようになるというように、九州の玄関口である福岡と一緒になって、楽しめる九州を演出できたらいいなとあらためて思いました。
―展覧会タイトル「画家としての生業」には、そのように人と人とをつないでいくという意味がこめられているのでしょうか。
北村:意図的につなげる役割ではなくて、アートを挟むことでいろいろなものが割とスムーズに横並びにできるんじゃないかとは思います。ただ今回のタイトルで伝えたかったのは、とにかく僕ら画家というものは描くこと、表現をすることでしか生きていく術がないということです。僕が特にそうかもしれませんが、描いて描いて描きまくっています。路上制作時代に描いた作品や、注文制作、企業案件を除いても、これまで描いてきた作品を数えると3万700枚ほどになります。僕は描き続けることでできることをずっと模索していて今もそれは変わりませんが、これからはアートを潤滑油にさらに活動を広げていきたいと思っています。
―作品のタイトルも印象的ですが、どのような視点で決めているのでしょうか。
北村:僕の見立てでは、世の中には正しさの裏に間違いがあったり、間違いの中に実は正しさがあったり、立場や状況によって、また短いスパンと長いスパンでの見方によって、その答えはどちらも正しければどちらも間違いであるということがよくあると思っています。そういう意味で、作品もタイトルをちょっとおかしくっていうか、ずらしていて、僕が答えを言うことは避けています。読んで違和感を覚える、やや距離のある言葉を使うことで、実際の答えは見た人ご自身でたどってもらいたいと思っています。たとえば鷹の絵を見て、「かっこいい」とか「強そう」とか何かしら思ったところから、僕が付けたタイトルまで運んでいってもらいたい。運べるぐらいの短い距離の物語をみなさんがそれぞれ作れたり、一緒になって記憶を蘇らせるようにタイトルを付けています。言葉は便利すぎて、不便なんですよ。使いすぎるとぐっと狭くなるので、広がりを失わないようにすることを大事にしています。
―これまでポスターなどで北村さんの絵を目にしたことがありましたが、実際の作品を目にするとやっぱり本物は違う!と思いました。このカラフルな色使いは、もともとパステルが残ってしまうのがもったいないという理由で始めたそうですが、今はこのスタイルをどう感じていらっしゃいますか。
北村:今は2つ理由があって、1つは後にインターネットで販売を始めるんですが、絵によって見られる回数がぜんぜん違うことに気づいたんです。生の作品だと絵の具の凹凸感なども見ることができるので人の目を引きつけるのはそんなに難しくないんですが、画面越し、しかも小さくて何を描いているかすら伝わらない中においては色のコントラストがとても重要でした。人って興味の有無を0.5秒で判断するらしいんです。0.5秒というごくわずかな間にその絵を見たいと思えるような色使いを意識するようになり、今も作品を描くときは最後の方で細目にして絵をぼかしながら見て色を調整しています。
北村:一方でもう1つは、刺激としての色を減らす作業をしています。僕はカラフルな絵を描きたいわけではなく、たとえば龍を描く場合、緑を助けるために赤があり、赤を助けるために金色があり、金色と紫の相性がよく、紫から青や黄色といった色が補色し合うっていう状態がとても大事です。緑を見ているときに、赤が気持ちよくなるわけです。そして赤を見ていると、次の色が見えてくるんです。そうやって色が周り始めたときに人それぞれに絵の色の印象が違うという現象が起きるように思います。「私には緑の龍に見える」という人もいれば、「水色の空にいる龍だよね」という人もいる。人によって、さらには日によって見え方が変わるというのが大事で、絵がきちんと動いていないとダメだと思っています。
―視覚以外の感覚を使って絵を「みる」ということですね。
北村:僕の中では、見る人が何かを感じているところにアートがあると思っています。そして、絵はあくまでも絵であり、相手がそれをどう思うかをコントロールできるのがセンスだと思っていて、僕はそのセンス、つまり人が手に取りたいという絵の意味をずっと探し続けています。たとえば、ここに赤を入れたいなって思ったときには、そこでストップする。赤を入れるとかっこよくなるし自分でもワクワクするのはわかっているけど、その赤を入れない方が見る人にとってもそこに何か色を入れたくなるんじゃないかというような、絵が見る人の気持ちを入れる容器になるんじゃないかと思っています。僕は絵を描かない人のために絵を描くって決めているのでこのような描き方になりますね。
北村:なおかつ僕は「パン屋のように絵を描く」とも決めていて、街のパン屋さんがパンを必要な人のために毎日パンを焼き続けるように、僕も絵が必要な人のために絵を描いていく。またほかの、たとえば農家さんが作った野菜を食べ共に生きていくということもすごく意識していて、その中で、僕は「自分は絵を描く係」としてみなさんに一番いいものを届けたいと思っています。今回、この思いが大分から福岡にまで広がりました。福岡に住む人たちや福岡を訪れる人たち、たくさんの人たちに見てもらって楽しんでもらえたらいいなと感じています。
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インタビュー中、「この時代の人が欲しいと思ったものを残すべきだと思っている」とも話していた北村さん。つまり北村さんにとって作品が売れることは重要な要素の一つであり、これまで描いた3万点を超える作品のほとんどはもう手元に残っていないそうです。今展でももちろん作品を販売するし、またグッズもたくさん用意されています。食べて元気になるパンのように、見て元気になる作品やグッズとの出会いも楽しみに訪れてみてください。
[プロフィール]
北村 直登(きたむら なおと)さん
1979年福岡県春日市出身。大分市在住。高校時代にブラジルへ留学。大学時代にサッカーを引退後、24歳で画家を志し大分駅前地下道で路上制作を始める。2014年ドラマ『昼顔―平日午後3時の恋人たち―』に作品が起用され注目を集める。現在は全国の百貨店での展示をはじめ、企業・自治体とのコラボレーションやワークショップなど幅広く活動している。また、福岡市動物園のポスターのメインビジュアルを担当するほか、大分トリニータ、JR九州など企業や団体とのコラボレーションも多数。大分県を拠点に活動しながら、首都圏での展示会や催事にも積極的に参加し、幅広く活躍。
アトリエHP:https://www.naotokitamura.com/
Instagram:@kitamura_naoto
[展覧会情報]
■名称:ATEC presents 北村直登展 「画家という生業」in FUKUOKA」
■期間:2026年4月24日(金)から5月10日(日)
■場所:ONE FUKUOKA BLDG. 1Fグランドロビー
(福岡市中央区天神 1 丁目 11 番 1 号)
■時間:平日11:00〜20:00土日祝10:00〜20:00
■入場料:無料
■主催:TOSテレビ大分
■特別協賛:株式会社エーテック
■協賛:C.Lincs 株式会社
本展は、制御盤の設計・製造を手掛ける株式会社エーテックの特別協賛により、制御盤という工業製品の写真をキャンパスとして、北村氏が描いたオリジナル作品をキービジュアルにするなど、企業とアートが連携し、地域文化を支えていく取り組みとして実現しています。
公式HPはこちらから