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駒形克己さんの「小さなデザイン」の中にある、想像や経験の大きな可能性(前編)【インタビュー】

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木下貴子
2020/04/13
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 造本作家・駒形克己さんのグラフィックデザインや絵本制作など、これまでの足跡をたどる「小さなデザイン 駒形克己展」。展示では、初期のデザインやアイデアスケッチなどもあり、駒形さんの仕事のプロセスも目にすることができます。それらを見るとなおさらに、駒形さんがどのような考えをもって活動してきたか興味をもつ方は多いことでしょう。展示作業で来福された駒形さんにうかがったお話をお届けします!

※会場の三菱地所アルティアムは営業再開しました。詳細については、アルティアム(http://artium.jp/)またはイムズ(https://ims-tenjin.jp/)のウェブサイトにてご確認ください。
 

展示の最終チェックを行う駒形さん(3月14日撮影)

―本展では、初期のお仕事も見られることに驚きました。

駒形:私も驚いています(笑)。自分の集大成というような展示を想像したことがなかったので。縁があってこういう形になりました。

―80年代初頭のアメリカ時代に手掛けられたデザインは、コンピュータグラフィックではなく、まだ写植でレイアウトを組んでいたんですよね。

駒形:私がデザインをはじめたころはコンピュータもない時代で、写植と向き合いながらのかなり想像力を必要とする作業でした。カラー印刷もモノクロで版下原稿を作って、それぞれの色を指定していました。ですから、ある程度自分の中で色のイメージができていないとそれを表現することがなかなかできません。それを補う意味でも私たちはスケッチをたくさんしましたね。特にニューヨーク時代は膨大な数のスケッチを描きました。たとえば煙草のパッケージをデザインするためには1日10枚のスケッチが当時のノルマで、5日間集中すると50枚のスケッチができ、2週間だと100枚になります。複数のデザイナーが共有する大きなプロジェクトになると、かなりの数のスケッチワークがずらっと並べられ、ディレクターがそこから選んだものを幾度となくステージを経ながら発展させていくという。1つのパッケージが決まるまでに、長いものだと1年半。いまのスピード感とはまったく違いましたね。

展示写真はいずれもアルティアムでの会場風景より。
アメリカ時代(1976~1983年)に手掛けたデザインも多く紹介されています

―手を動かすことが、創作の基礎になったということはありますか。

駒形:いまの時代、ネットで検索するとありとあらゆる情報が得られ、その検索機能を使えばコンピュータの中からいろいろなものが引き出せます。ですが、自分が見たり描いたりする経験と比べると、コンピュータから引き出す、あるいは撮った写真をコンピュータに取り込んで使うという行為だけだと、自分の中になかなか入りにくいのではないでしょうか。そういう意味では手に還るというか、やはり手の作業っていうのは大事だから、若い人たちにもそこは疎かにしないでほしいという気持ちはありますね。

―本展では駒形さんのスケッチも展示されていて、中には小さなメモ的なものもあります。

駒形:サムネイルスケッチといってね、たとえば自分の描きやすい大きなスケッチを描くのもひとつの方法ではあるんだけども、ちっちゃく描くことによって、ノート1ページ、あるいは見開きの中に集約させることができるわけ。そうすると、アイデアを練るときにページをめくりながらの作業ではなくて、一目である程度の認識ができます。全体を把握するというのはけっこう重要な作業なので、最初はあえてディテールにとらわれず、むしろディテールが入り込めないようなちっちゃなスケッチワークから始まって、それをだんだん発展させていくという感じですね。

A4サイズの紙に描かれたサムネイルスケッチなども公開されている

―絵本を作るきっかけとなったのが、お子さんの誕生だったそうですが、当時どのような気持ちで本を作ろうと思われたのですか。

駒形:私は自分の父親とほとんど一緒にいたことがなく、父親の存在というものが想像できなくて、子どもが生まれたときに何をしていいか見当もつかず、最初は何もできませんでした。ですが、娘が生後3カ月ぐらいになって私の顔をじっと見つめるようになったときに、彼女は私のことを誰だと認識しているんだろうって思いました。そんな中で、目が見えているような様子だったので、まず見えているのかを確かめてみた、という経緯があります。いろいろな色、形等々、作って見せていく中で見つけたのが、コントラストの強い色への反応でした。視線はまだおぼろげなんだけど、明らかに「見る」目をしはじめて。私もそれがとても楽しくて、娘となにか共有するということが自分なりに生まれました。日に日に成長していく赤ちゃんの様子は実におもしろかった。その変化に対応するように作っていったのが『Little Eyes』シリーズです。娘が生後3カ月から3歳ぐらいまでの間の、成長のプロセスのなかで生まれていきました。

―娘さんとコミュニケーションをとりながら、色や形などを決めていったのですか?

駒形:娘が一番きびしくて(笑)。いらないものはいらないという態度をとるし、興味あるものは興味を示すという。色はやはりはっきりした色への反応が高かったですね。ただ、色も順番があるんだなと思いました。友人から贈っていただいた3色の人形のおもちゃを娘が見つめていたとき、漫画みたいに目がくるくる回って泣き出しちゃったことがあったんです。そのときに、物を渡す、伝えることにも順番があるんだなってつくづく感じました。いま世の中には、キャラクターものが豊富にありますが、それを認識する手前の段階の、なにか色や形が変化したり、つながって別のものが生まれたりというような、そういうプロセスをまず少しでも経験することを大事にできたらなと思います。

―赤ちゃんの動作にも首が座り腰が座り、はいはいして歩き出すという順番があるのと同じように、感性に関しても丁寧なプロセスで導いてあげることが必要なんですね。

駒形:そう思いますね。ある程度完成されたものをはじめから見せられてしまうと、想像力が入り込むチャンスがありません。赤ちゃんだからこそ、少なくとも3歳ぐらいまではあまりあわてずに、プロセスとじっくり向き合っていくのが大事かなと思いますけどね。

全10タイトルからなる『Little Eyes』シリーズ

―それをふまえると、駒形さんの本では言葉があまり多く使われていないのは、想像力で物語を補うという意図があるのでしょうか。

駒形:私も子どもに絵本の読み聞かせをしようとしたこともありましたが、ストーリーがどうしてもお母さんよりのものが多くて、私がその物語を読むのには照れがありました。だから、こういった本を作ることになった時に、自分の言葉でなにか話せるものをというのが一つあって。もしかしたら私と同じような思いを抱く方もいらっしゃるんじゃないかと思い、言葉を少なめにしました。読み聞かせは読み聞かせでストーリーを伝え共有できる大事なものではあると思いますが、すべてそういう形ではなく、自分の言葉が十分に入り込めるチャンスがある本もあっていいんじゃないかと。

―1冊の中で複数の種類の紙が使われたりと、紙に対する意識がとても強いように思います。

駒形:いまだからこそ言えるのですが、娘がまだ小さい頃に一緒に見たり読んだりした絵本が、20年、30年経って、自分たちと同じように明らかに一緒に歳をとってくれているんですよね。そういう物質的な部分が、いまとなってみればありがたく感じます。デジタルのものはたしかに量などに対応するうえではすごく便利ですが、「経験の質」も必要じゃないかなと考えます。たとえば紙の場合、触れればいろいろ違う質感があったり、ページをめくれば音がでたりとか。そういうちっちゃな感覚を子どもなりに受け取っていくことが、「経験の質」になるんじゃないかな。圧倒的なデジタルでの量に対して、「経験の質」を伝えられたらという気持ちはあります。

―「経験の質」ってとてもいい言葉ですね。その紙を選ぶのも、娘さんの影響が大きかったのでしょうか。

駒形:娘も13~14歳ぐらいまでは私と向き合ってくれたんですが、思春期のころから否定されるようになりまして。そういうときに捨てる神あれば拾う神ありで、パリのポンピドゥー・センターの学芸員から視覚障がい者に向けた本のオファーがあったんです。そのときに、紙というものに改めて向き合うチャンスをもらいました。最初の段階で、触って気持ちのいい品質の紙を使った試作をパリに送ったんですね。向こうでは、モニタリングで実際に目の見えない人たちに触ってもらって。さらに調査をするための二度目の試作の時に、コスト面を考えて少し紙質を落として作ったものを送ったんです。そしたら怒られてしまって。最初の紙がね「触って、とてもきれいだった」と言うんですよ。触ってきれいという感覚が、私にはない感覚だったんで驚きました。私たちは、見た目はきれいとは言うけど、触ってきれいとは言わないですよね。気持ちいいぐらいは言うかもしれませんが。最終的には、最初の紙を使って本を作りました。経済効率からいうと、より多くの人たちに向けて作れば量産も可能だし、物流が生まれコストパフォーマンスも高くなります。一方で、少数の人たちに向けて作ればいろいろな意味でコストアップになってしまいます。でも、私がその視覚障がい者や聴覚障がい者の人たちと向き合うチャンスがこれまでにいろいろあった中から自分なりに感じたことは、むしろ少数の人たちの意見とか感じ方とか、生活の不便さとか、そういうものこそが私たちがフィードバックするチャンスとなり、ほかへと活用もできるのだと思います。

写真右上の赤い装丁の本が、視覚障がい者に向けて作られた『折ってひらいて』

 

後半に続きます。

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