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駒形克己さんの「小さなデザイン」の中にある、想像や経験の大きな可能性(後編)【インタビュー】

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木下貴子
2020/04/13
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 三菱地所アルティアムで開催中の「小さなデザイン 駒形克己展」(~5月10日[日]まで)で紹介されている、造本作家・駒形克己さんのインタビュー後編です。前編はこちらからどうぞ。

※三菱地所アルティアムは営業再開しました。詳細については、アルティアム(http://artium.jp/)またはイムズ(https://ims-tenjin.jp/)のウェブサイトにてご確認ください。
 

―デザインをする、本を作るうえで「小さなこと」を大切にされていることについて詳しくお聞きしたいのですが。

駒形:渡米する前、日本デザインセンターという会社で大手企業の広告などの仕事をしていました。そこでは、ポスター、雑誌、新聞というメディアによって大量に情報が発信されていくという世界を経験しました。そして渡米してロサンゼルスへ行き、そこからニューヨークへと移ってCBSという会社に入ったんですが、そこでは社内向けに作られている小さなグラフィックがあったんです。インビテーションカードやダイアリー、営業用のプレスキットなどいろいろあり、紙質や加工にすごくこだわり、デザイン的にもすぐれているものがたくさんあって。そういうものに触れていくなかで、マスメディアに載せる表現ではなくて、ものとして作り込んでいくという楽しさを経験しました。また、CBSの後にシェクターグループというパッケージデザインの会社に入って、そこでは、たばこやコーラのパッケージなどスーパーマーケットに並ぶような商品のパッケージデザインを担当しました。それらは確かに大量に作られるものではあるけれど、人の手の中に収まるものであり、一人の人にとっては一個のパッケージというそんな関係性が、とてもおもしろいなぁと思いましたね。

―手の中に収まる……一人ひとりに向けて、ということですね。

駒形:私たちはふだん本や物を作るうえで、数としては何千部とかそういう数と向き合っているのですが、その中でとても印象に残った出来事が東日本大震災前後にありました。東日本大震災が起きる前の年の11月に『Little tree』という本がテレビで紹介されて、注文が殺到してあっという間に在庫切れになっちゃったんです。それで重版をかけたんですが、その重版が届いた日が地震が起きた日でした。待っていてくれる人もいるので発送準備をし、集荷の人たちもいつもどおりにピックアップにきてくれて配送に回ったんですけど、その何週間か後にやはり仙台や福島などの地域に住む人たちの分が戻ってきちゃったんです。どうしようかとしばらく様子をみて、一カ月かそれぐらいかな、もう一度、送ってみたんです。そうしたら宅配の人が、避難所の一人ひとりに声をかけ名前を確認して届けてくれたんです。その中の一人の方からお礼の電話をいただいたときに、私たちはたくさんの人と向き合っているようであるけど、手に取ってくれるのは明らかに一人ひとりの人であるということを、決して忘れてはいけないなと思いました。

―いまは年間どれくらいの本を発行しているのですか。

駒形:3~4タイトルを重版し、新刊はできても1~2冊ですね。

―とても丁寧に作られているんですね。会場で上映されている映像で見ましたが、たとえば聴覚障がい者に向けた本を作るにあたって、いろいろな人たちに話を聞かれたりされていますね。

駒形:ものを作るという行為って、自分の想いだけで作るとそれはむしろ独りよがりだったりして、なかなか共有されにくいものです。アートの場合は個の部分で成立するという世界観があると思いますが、私たちのようにものを作って共有するとなると、そこに明らかにいろいろな関係性が生まれてくるんですね。たとえるならまず畑を耕し、種を植えて、そこに芽吹きがあって、成長して……というように、我々のものづくりってまず畑づくりから入るんです。そうするとやはりどういう人たちに必要とされるのか、どういう人たちと向き合うのが大事かを考えた土壌になり、そこにプロジェクトにおける必然性のようなものが種として植えられる。水や光のように我々が栄養をあたえ、ようやく芽吹いたものを実際に育てていくのは使う人たちであると考えれば、ものを作るというよりも、ものが生まれて来るという感覚の方が私にとっては正しいプロセスなんですね。デザインという行為そのものが、いわゆるアートのように個の部分と向き合うことと少し違うのは、明らかにそれを必要とする人たちとの関係性が伴うということだと思います。そういう意味でも、視覚障がい者の人たちや聴覚障がい者の人たちともまず向き合う。その人たちがどういうふうにものを捉え、経験をしようとしているのかを知るのは重要なことですよね。

―特定の読者を想定していない本については、いかがでしょう。

駒形:とてもプライベートなものもあります。たとえば『Little Tree』という本は、最初はまったく違うコンセプトでした。「木」というテーマは同じでしたが、元々はもっと四季を表現するようなことでスタートしたプロジェクトだったんです。ですが制作の途中で、私がとても尊敬する叔父さんが急逝してしまったんです。その叔父さんにとても大事なことを教えられたお礼を伝えるチャンスがなくなってしまい、それを本に託したのが『Little tree』でした。このように私個人の想いを込めた本もありますね。

『Little tree』展示風景

―ところで、駒形さんは実は福岡にゆかりがあって、九州大学病院の小児医療センター病棟の環境デザインもされているんですね。そのお話をきかせていただけますか。

駒形:当時の九州大学病院の病院長・水田祥代さんが就任されたとき(2004年)、九州大学病院の施設整備の残り半分がオープンになるタイミングでした。小児医療センターも5階・6階に開設されることになっていて、ほかの病棟と同じようなサインシステムや内装がすでに決まっていたんですけど、小児外科出身である水田先生が、子どもたちが安心できるような環境をと、それまで決まっていたものを取りやめて、私に声がかかったんです。それで、まだ工事中の現場を見に行ったんですが、その時に迷子になったというか、方向がまったくわからなくなったんです。どこも同じように見えて。そこでまず、「手すりの色を変えられますか」ってきいてみると、「大丈夫ですよ」とのお返事をいただいたので、えんじやグリーン、インディゴブルーなどいくつかの色に変えてもらいました。手すりの色を変えることで、いまどの場所にいるというのが分かりやすくなるでしょ。まず、そういうところから入りました。それと、私は本を作る人間なので、プレゼンテーションのときに『森のお医者さん』という絵本の形態にしてお見せしたんです。それがとても評判がよくて、そのグラフィックと絵本をリンクさせたら面白い効果が生まれるかもということになり、お医者さんの白衣のポケットに入るサイズの絵本に展開し、さらに絵本の中に描かれているグラフィックを病棟のあちらこちらに使用しました。

駒形さんが手掛けた、九州大学病院の小児医療センター病棟の環境デザイン

―本展を見にくる方の中にも、九大病院の小児病棟を訪れたことのある方もいらっしゃるかもしれませんね。では、最後に福岡の人たちに向けて、メッセージをお願いします。

駒形:福岡はとても大好きです。なにしろ人が優しい。特に女性の博多弁は、ニュアンスがやわらかくて、ものごしが落ち着いているように感じます。それと、那珂川という河があって、なんとなく小さなパリのようにも思えます。河があると当然その上にはなにも作れないので都市の割には空が広い。いい街ですよ、福岡は。大好きです。

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