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老若男女全ての方が楽しめる!「追悼水木しげる ゲゲゲの人生展」へ、行ってみませんか?【レポート】

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伊勢田美保
2017/11/10
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人生に悩んだ時、少し立ち止まりたい時。人の言葉や生き方が勇気をくれることって、ありますよね。そんなきっかけにもなってくれそうな、楽しくも味わい深い展覧会が、福岡県立美術館で開催中です。その名も「追悼水木しげる ゲゲゲの人生展」。
水木しげるさんと言えばみなさんご存知、「ゲゲゲの鬼太郎」の作者。2015年に93歳で“あの世”へ去るまで、「悪魔くん」「河童の三平」などに代表される数多くのヒット作を生み出した、日本を代表する漫画家です。が、どうやらこの企画はその側面に留まらず、“徹底的に水木しげるの魅力に迫る、回顧展の決定版!”なのだとか。期待に胸膨らませ、会期2日目に潜入してまいりました!

美術館の入り口には大きなパネル。妖怪たちの笑顔に誘われて会場へ。

展示は、子ども時代から順を追って水木さんの人生を辿る流れになっており、とても見やすくなっています。まず最初に出迎えてくれたのは、なんと水木さんの「ヘソの緒」!水木さんに迫るとはいえ、まさかヘソの緒からスタートするとは・・。ヘソの緒が入った箱には「国宝」と書かれたメモ。子どもの頃から収集癖のあったご本人が貼り付けたものだそうです。

水木少年の才能の芽生えは、鮮やかな色彩で緻密に描かれた自画像や油彩画、自作の絵本など多数の展示が物語っています。また幼い頃、近所に住んでいたおばあさん「のんのんばあ」から、妖怪や死後の世界について聞かされ、不思議なことや異界に興味を持っては自身で創り出したという絵物語も展示。すでに「妖怪画家」としての片鱗が見えます。

「のんのんばあ」の話の一つ「座敷童子」を再現した音声つきパネルは子ども達に人気。

「画家になりたい」と夢見て過ごした楽しい少年期。しかし時代は太平洋戦争に突入、水木さんもパプアニューギニアの激戦地に赴くことに。戦地から家族に宛てた手紙や、戦中戦後に現地人や自然を描いたスケッチ、のちに戦争体験を重ねて描いた戦記漫画などは胸に迫るものがありますが、同時に激戦地にあっても現地人との触れ合いを大切にした生き方が伝わってきます。

左腕を失うほどの重傷を負いながらも奇跡的に一命を取り留めた水木さん。それでも絵を描くことへの情熱は絶やさず、戦後は神戸で紙芝居を描いたり、上京して貸本漫画を描いたりしてわずかなお金を稼いでいたそう。そんな極貧時代に書いたスケッチの中には、のちに「ゲゲゲの鬼太郎」の原作になった貸本漫画「墓場の鬼太郎」も。

また、充実した会場内では、立体演出も楽しみです。その一つが、水木夫妻が新婚当初暮らしていた居間の再現。貧しかった当時は、果物屋で腐ったバナナを買ってきては夫婦で食べていたそうで、そのリアルな再現で、より水木さんを身近に感じられます。ちなみにこちらは会場で唯一、撮影OK!
 

水木夫妻が新婚当初暮らしていた居間の再現コーナー。本棚の上には、夫婦で楽しんで作った軍艦のプラモデルがあり、ちゃぶ台にはよく買ってきては夫婦で食べたという腐ったバナナ(模型)も。

苦難多き水木さんの漫画人生の中で大きな転機となったのが1965年の「テレビくん」での『第6回講談社児童まんが賞』受賞。そこからは次々とヒットを飛ばし、妖怪漫画の第一人者と呼ばれるようになりますが、後半はそんな多忙時代の漫画の原画や、作画資料のために作成したスクラップブックなども交えて展示。名作を生み出した書斎の原寸大再現コーナーもあります。

おなじみの「ゲゲゲの鬼太郎」のイラストも多数展示。
日記帳をアイデア帳として利用しており“鬼太郎を犬にする”というアイデアまで・・!
多くの人が足を留めていた水木さんの書斎の実物大再現コーナー。プロジェクターを使用した演出が面白い。

そして、一種独特な空気をまとった会場の中で、一際怪しげなムードを醸していたのがこちら「水木しげるの妖怪博物室」。
 

突如現れる真っ暗な一室。

売れっ子作家になり多忙を極めた水木さんでしたが、50歳を超えた頃から意識的に仕事を減らし、妖怪の研究に没頭し始めたそう。ここには世界中約60カ国を訪れて集めた、妖怪・精霊像コレクションの展示がされています。東京の自宅に設けた妖怪ギャラリーの再現で、これでもほんの一部なのだとか。(自宅は一体どうなっているのか・・)

水木さんの収集品がズラリ。突然光ったり動いたりする仕掛けにビクッ。

さまざまな形で、水木さんの濃すぎる人生を辿ってきた展示。最終章では、その人間としての側面にぐぐっと迫ります。「ゲゲゲの女房」こと布枝夫人のインタビュー映像や、約50人の各界著名人からの追悼メッセージ。それはどれも温かさに満ちていて、水木さんの残したものの大きさに気付かされます。

 

最後に、担当学芸員である魚里洋一さんに改めて本展の見所をお伺いしました。
「貧乏な時代を過ごした居間の再現や、書斎の再現コーナーは大きな見所ですが、個人的には貧乏時代の『墓場の鬼太郎』シリーズや、水木さんが脚光を浴びるきっかけとなった『テレビくん』など、初期の作品の原画もぜひ見ていただきたいですね。重要な場面が選び抜かれています。

実は、13年前に一度『大水木しげる展』を開催したのですが、今回はコンセプトが全く異なり、水木さんの人生にフューチャーしています。大変すばらしいアーティストでありながら人とは全く異なる人生観を持ち、戦中戦後の長い不遇の時代を過ごしながらも必死に努力して作品を作り続けそれが認められて成功した。また、50歳を一区切りにして海外へ行かれるなど、非常に豊かな人生を歩まれた『生き方の達人』でもある水木しげるさんを見ていただけるのではないでしょうか。年配の方は時代が重なるので感じる部分もあるでしょうし、アニメで親しんだ世代や、TV放映で知った方などさまざまな方に楽しんでいただける展覧会だと思います」

と力強いメッセージをいただきました。実際会場に訪れていたのは、性別や年代もかなり幅広く、各々が自分の胸の内と会話するように一点一点に見入る姿がとても印象的でした。
 

波乱万丈な人生経験に裏打ちされた水木さんの言葉が胸に響く。

漫画原稿、出版物、絵画、エッセイ、映像、写真、愛用していた私物、妖怪像・精霊像コレクション・・合計約390点で、徹底的に水木しげるの魅力に迫れる本展。水木ファンのみならず、多くの人が自分の人生を振り返るきっかけにもなってくれそうです。期間は12/10(日)まで。興味を持った方はぜひ、会場へ足を運んでみてはいかがでしょうか?

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