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「アルチンボルドの天性のバランス感覚は秀逸!」《ルドルフ2世展》片桐仁講演会【レポート】

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大迫章代
2017/12/09
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福岡市博物館で現在開催中の「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」。同展の福岡会場公式アンバサダーを務める、コメディアンで、不条理粘土アーティストの片桐仁さんが、展覧会中盤の11月22日、福岡市博物館を訪れ講演会を行なった。「片桐仁による独善的博物館の楽しみ方・アートの魔力」と題された講演会の模様をレポート。

「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」福岡会場公式アンバサダー、片桐仁さん(右)。写真左は同展の担当学芸員・髙山英朗さん(中央)と主催者・西日本新聞社・事業部・橋本剛さん

そもそも片桐さんが同展のアンバサダーに就任するきっかけとなったのは、2017年5月にイオンモール筑紫野で開催された「片桐仁 不条理粘土作品展 『ギリ展』」。来福した片桐さんにアルトネがインタビューした際、西日本新聞社・橋本さんが、片桐さんの作風にジュゼッペ・アルチンボルドとの共通点を感じ、直接協力を依頼したのが発端だ。言ってみれば、“アルトネが結んだ縁”!!

コメディアン、俳優、そして不条理粘土アーティスト片桐仁さん

片桐さんが特に好きな絵だというアルチンボルドの《ウェルトゥムヌスとしての皇帝 ルドルフ2世像》。この作品と、彼の追従者たちの絵に触れ、「アルチンボルドの絵はすごく流行っていて、美学生みたいな画家たちが、オレもこんなの描きたい、と必死になって真似たのがよく分かりますよね。パーツ一つひとつに何かが宿っているアルチンボルドの絵に比べて、追従者たちの絵は、どこか単調でアンバランス。皇帝の肖像画ということで、アルチンボルドも本気で描いたのでしょうが、彼の計算ずくな部分と天性のセンスが見事に合わさっていて、その塩梅がすばらしい」と片桐さん。

会場展示より。ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者による作品たち
左:作者不詳《四季のうち春》中:作者不詳《四季のうち夏》 右:作者不詳《四季のうち秋》
3点いずれも 17世紀、油彩・キャンヴァス、エスターハージー財団、フォルヒテンシュタイン城宝物殿、オーストリア Esterhazy Privatstiftung, Forchtenstein Castle, Esterhazy-Treasury

会場には、アルチンボルドや展覧会にインスパイアされた片桐さんの2作品も展示されている。

片桐仁《片パット》会場展示より

「これは、iPadのカバーです。いろんなものが集まって顔になっているというのをやりたかった。ただ、こういう作品はやりすぎると顔だと気づいてもらえない。自分で作っているからこそ、アルチンボルドの非凡さがよく分かるんですよ」。

《GAIKOTSU》の説明をする片桐さん

「こちらはIQOS(アイコス)の携帯カバー。僕はタバコを吸わないのですが、アイコスユーザーの宮川(大輔)さんから「アイコスで作ったら」とすすめられて、偶然映画の撮影で壊れたアイコスとケースをもらったので渡りに船だと。「IQOS 」で「GAICOTSU(ガイコツ)」というタイトルを思いついた時に、「やっとルドルフ展の作品ができる!」と思いました(笑)。実はこれ、ブリューゲル(父)の絵にもインスパイアされています。ブリューゲル(父)の花の静物画って、華やかだけど枯れているものも同時に描かれていて、どこかはかなくてせつないでしょ。タバコも吸ったら煙になって消えてしまう。その“はかなさ”を作品には込めています」。

ヤン・ブリューゲル(父)の静物画も作品のアイデアになっていたとは!

「仕事とアート活動のバランスはまったく取れてない」という片桐さん。何より作品を発想するまでが大変で、《GAIKOTSU》の場合、アイデアを思いついたのが1週間前、直前まで調整を重ね、福岡市博物館に到着したのは、展示館開始の1日前だったとか。「かみ合わせが難しくてね。上の前歯2つをボタンにするために、外してバネつけて…とかやっていたら前日までかかちゃいました」という片桐さん。一方、博物館側は「本当に届くのか」と心配していたそう。

左から土偶型のペットボトルケース、アイスの“ガリガリくん”ケース、恐竜型のドライヤーケース、火炎土器風ジオラマ。一見何のため?と疑問に思うユニークさこそが、不条理粘土アートの神髄なのだ。

小学校のときから図工の時間が好きで、何より夢中で何かを作っている瞬間が楽しいと語る片桐さん。美術の方法論や型にはまらない発想の自由さが魅力だ。

 

そんな片桐さんならではの美術館や博物館の楽しみ方は?

「最近は美術誌の連載で、キュレーターから話を聞く機会が増え、キュレーターの意図が伝わる美術展が面白いと思うようになりました。この展覧会は彼の愛したものと、その時代を紹介する内容。ルドルフ2世の嗜好の広さと、錬金術から科学に移行していく時代の言葉にならない空気感が出ていて面白いです」と片桐さん。

「その美術館や博物館の個性が分かるのが常設展示。だから常設展も見てほしい」と片桐さんが語ると、「福岡市博物館では、国宝の《金印》を常設展示しています。京都国立博物館の国宝展では1時間待ちだったそうですが、ここでは1時間じっくり見ることができますよ(笑)」と学芸員の髙山さん。会場に笑いが起きた。

 

最後に、本展の楽しみ方は?

「おすすめは2周目。それと音声ガイドを聞くなら2周目、いや3周目に。自分で何かを感じた後に説明を聞くと、思っていたのと全然違うことに気づけて楽しめますよ」。

12月24日(日)まで開催中の「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」。すでに見たという人も再び足を運ぶと、もっと違う新しい発見ができそうだ。

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