漫画界のレジェンド
松本零士展
2018/10/27(土) 〜 2018/12/24(月)
09:30 〜 17:15
熊本県立美術館
木下貴子 2018/04/12 |
「漫画の神様」といえば誰もが思い浮かべるのが故・手塚治虫先生ですが、その手塚漫画をきっかけに漫画家となり、従来の少女漫画の概念を打ち破る数々の名作を生み出し、「少女漫画の神様」と称される漫画家こそ、今回フィーチャーする萩尾望都先生です。
福岡県大牟田市出身の萩尾先生。地元ゆかりの漫画家を中心に、幅広く漫画作品と関連資料を収集・保存し、漫画の特性や魅力を伝えていく北九州市漫画ミュージアムにて、ついに萩尾先生の展覧会「萩尾望都SF原画展 宇宙にあそび、異世界にはばたく」(以下SF原画展)が開催されました(5月20日(日)まで)。
初日の3月17日(土)には、萩尾先生が来福しオープニングイベントも開催。何を隠そう、筆者も萩尾作品の虜となった一人。鼻息荒くして行ってきた、オープニングイベントと展覧会レポートを、2回にわたってお届けいたします!
●作品秘話に会場が湧いた、萩尾望都トークショー
オープニングイベントは、「萩尾望都トークショー」と「萩尾望都×松本零士 対談」の2部構成。言うまでもありませんが、松本先生もまた漫画界の大巨匠。巨匠2人が揃うとあって、会場は満員御礼です。
第1部「萩尾望都トークショー」は、北九州市漫画ミュージアムの石井茜学芸員が聞き手となり、進行しました。
SF原画展は、2016年に出版された書籍『萩尾望都SFアートワークス』がベースで、展覧会場には1970年代初期から2000年代までの約400点もの原画が展示されています。とても保存状態がよい原画はすべて、原画室にて年代順に引き出しに入れて保管しているという話や、膨大なSF作品のなかで萩尾先生のお気に入り作品の話など、SF原画展にまつわる話から展開しました。
SFとの出会いに話がおよぶと、「それはやはり手塚先生の『鉄腕アトム』だったと思います」と萩尾先生。「小さい頃からアニメが好きで、友人と貸し借りながら漫画も読んだんですけど、未来の話で、ロボットが人間のような心をもってヒーローになるところがすごく面白くて」と当時の想いを振り返ります。
『鉄腕アトム』をきっかけに、漫画にしろ小説にしろ、図書館に入り浸ってはSF作品を読みふけったという少女時代を過ごし、念願の漫画家となってからも「ネタ帳の6~7割ぐらいがSFネタです」というほどのSF好き。「とにかく現実より、足を地に着けているというより、ちょっと浮ついたような未来とか過去とか異世界に惹かれていて、そっちの話ばかり考えていました」と話します。
生み出しやすいキャラクターは向こうからぽんとやってきて話しかけてくる、作品は長編でも短編でもすべてストーリーが出来上がってから描き始めるなど、まさに神がかった話が引き出されるなか、「『スターレッド』については、編集者が訪ねてきて『何か描いてほしい。3日後に予告を取りにくるから』って突然言われて。『どうすればいいんですか』、『とにかく早く出してくれ』、『はいそうですか』って感じで。ちょうどその頃、映画『スターウォーズ』を見て『スター』ってやっぱりかっこいいなって思ったものですから、よしじゃあ『スターレッド』にしちゃえって決まったんです」と、こんな微笑ましい誕生秘話も聞けました。
会場に集ったファンを代表するかのようにディープかつ細やかな質問を行う石井学芸員に対し、丁寧に答える萩尾先生。35分という短いながらも、濃密で大満足な時間となりました。
●恐るべし松本先生の記憶力!あの「漫画の神様」の昔話も……
第2部の「萩尾望都×松本零士 対談」は、北九州市漫画ミュージアムの名誉館長でもある松本先生たっての希望で実現したという夢のコラボレーションとなりました。
2人は親交が長く、かつては漫画家仲間たちで一緒に、世界中を旅したこともあったそうです。対談はその旅の思い出から始まりました。
松本:いつ出会ったのかは正確には記憶しませんが、ご一緒にね、アマゾン川を泳いだりマチュピチュに登ったり、そういうこともやりました。ちば(てつや)先生とかも一緒に。アマゾンも行きましたよね。アマゾン川で泳いで、私がピラニアを捕まえて刺身にしてみなさんに食べさせたんですよ。
萩尾:どこかの池でワニも釣られたでしょう。ワニも食べましたよ。鶏のササミみたいな味でした。
松本先生は、御歳80歳。戦後過ごした北九州時代の話から、上京したての頃の思い話など、情景がまざまざと浮かぶほど事細かに話される松本先生の記憶力には、さすがの萩尾先生もびっくり。大変感心されながら相槌を打っていました。しかも息つく間もなく矢継ぎ早に語られる松本先生の話の中から、漫画ファン垂涎のエピソードを厳選しました。
まずはこちら!「漫画の神様」手塚治虫先生の話です。
松本:私が高校を卒業した頃に、手塚さんの脱出事件というのがありました。
萩尾:脱出ですか?
松本:手塚さんがフクニチ新聞の仕事で福岡に来た時に、アシスタントを誰も連れてこなかったんです。高井研一郎くんや私がこっちで九州漫画研究会っていうのを作ってたんで、あいつらがいるからいいって本人だけやってきて。それで、電報が届いて電話を掛けてみたら「助けてくれ」って。それで博多まで行きました。
萩尾:電報で呼ばれて、原稿の手伝いに行ったんですか?
松本:博多駅前の旅館に泊めてもらったんですが、費用は新聞社が払っていますから見つかったら怒られるって、みんなで夜中に布団をかぶって電灯を持ちこんで原稿を描きましたね。そういういろんなことがありました。
名作『銀河鉄道999』の誕生秘話も!
松本:高校では進学部にいて、受験までは何とかなったんですが、金がないということで大学を諦めて。それで上京しました。小倉駅から往きの切符だけ買って乗車したからもう死んでも帰られないという状況のなか、関門海峡のトンネルをくぐるでしょ。そしたら真っ暗闇になるんですよ。まるで宇宙にへ行くみたいに。それで下関側の方に出ると別世界。この経験が、『999』の原型になったんですね。
世代は少し違いますが長く友情を育んだ2人。漫画家としてお互いをリスペクトする場面も見られました。
松本:男性作家も少女雑誌に描いてはいたけれど、我々は女性のことは何にも知らないし、だから表現が少し空想的なんですよね。それで、女性作家たちが登場してきて太刀打ちできず、我々男性作家たちは全員首が飛んだんですよ。
萩尾:今回の対談のイメージで、メーテルとコラボレーションさせていただいたんですが、このメーテルの眼力に押され、うちのキャラクターは全滅いたしました。
馴染みの2人だからこそ聞くことができた、公私にわたるさまざまなエピソード。ほっこり笑える昔話が中心でしたが、凡人の域を超えた逸話も多々あり、この2人こそがSFだ……とも思えるような、まさに漫画のような話が満載の対談となりました。
次回、レポート第2弾では、アルトネ単独インタビューでゲットした萩尾先生のコメントと一緒に展覧会場の見どころを紹介します。お楽しみに!
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