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傑作が揃う!とはまさにこういうこと。「至上の印象派展」【レポート】

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木下貴子
2018/06/20
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2月に行われた記者会見、4月に開催された勉強会で、その素晴らしさをたっぷりと聞いてきたビュールレ・コレクション。早くこの眼で確かめたい……とうずうずしていたが、ようやくその機会がやってきた。九州国立博物館にて5月19日(土)、ついに「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」が開幕。「人が多いかも」と思いつつも見たい気持ちを抑えきれず、さっそく初日に訪れてみた。

 

九州国立博物館で開催される特展では、会場入口の演出も楽しみの一つなのだが、今回もまたいい感じ。本展大注目の作品の一つ、日本初公開のモネの作品《睡蓮の池、緑の反映》がモチーフだ。この時点でまたもテンションが上がる!

「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」会場入口


会場に入ってまず現れたのは、ノーブルな印象の赤い部屋。本展は10の章に分かれて構成されるのだが、第1章となる「肖像画」の部屋である。入口正面に飾られる、《踊り子》で有名なドガによる女性の肖像画が、「ようこそ、いらっしゃい」と言っているかのような視線を投げかけてくる。

第1章「肖像画」会場風景より
エドガー・ドガ《ピアノの前のカミュ夫人》1869年(部分)

1861年に、画家シャルル・グレールがパリで開いていた私塾で出会い、親交を深めたというルノワールとシスレー。この絵は、ルノワールによって若き日のシスレーを描いたものだ。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《アルフレッド・シスレーの肖像》1864年

それにしても、一つひとつの作品が大きめで額装も豪奢、さらに会場のつくりも重厚で、展覧会というよりもヨーロッパのどこかの美術館を訪れているような気になってくる。

印象派、ポスト印象派を中心とするビュールレ・コレクションだが、大学で美術史を学んだビュールレ氏は自らのコレクションにも歴史的な広がりを与えたいと、その前後の作品も集めている。第1章では17~19世紀に描かれた肖像画を見ることができたが、次の第2章「ヨーロッパの都市」の部屋でも、18世紀前半のヴェネツィア、ロンドン、パリといったヨーロッパの大都市を描いた作品を見ることができる。なかでもカナールの風景画は、現代でいうならスーパーリアリズム。緻密に描かれた景色は、まるで本物だ。

 

アントーニーオ・カナール(カナレット)《カナル・グランデ、ヴェネツィア》1738-42年(部分)
Photo: SIK-ISEA, Zurich (J.-P. Kuhn)

ふと気づく。記者会見や勉強会、あるいは公式ウェブサイトや他のメディアなどで見どころとして紹介されてきた作品以外の作品も、甲乙つけがたいほど素晴らしいではないか、と。本展のゲストキュレイター・深谷氏が「とにかくクオリティが高いコレクション」と言っていたが、この時点でそれを実感する。

第3章「19世紀のフランス絵画」、第4章「印象派の風景―マネ、モネ、ピサロ、シスレー」、そして第5章「印象派の人物―ドガとルノワール」とテーマごとに展開されていくのだが、第6章と第7章で構成が変化する。

第6章は「ポール・セザンヌ」、第7章は「フィンセント・ファン・ゴッホ」と、それぞれの作品だけを集めた部屋がつくられているのだ。セザンヌ、ファン・ゴッホという巨匠の作品をそれぞれ一空間で堪能できるだけでなく、印象派以前の作品もあわせて展示されてあり、彼らの作風の変遷を一目で見ることができる。これは非常に貴重な機会である。

第6章「ポール・セザンヌ」会場風景より

 

ポール・セザンヌの初期の新境地《聖アントニウスの誘惑》1870年頃
フィンセント・ファン・ゴッホ《古い塔》1884年


第8章「20世紀の初頭のフランス絵画」、第9章「モダン・アート」と続き、モネの睡蓮の作品ただ1点だけを紹介する第10章「新たなる絵画の地平」で展覧会は幕を閉じる。

 

記者会見や勉強会では、第8章のポスト印象派の作品や第10章のモネの作品にもスポットが当てられ、第9章のモダン・アートの作品はやや影が薄い印象だったが、いやはやこの章もまた、ピカソやブラックなどの巨匠と名画ぞろいであった。

 

ビュールレ・コレクションの大半は1940年以降の10数年間に収集されているが、抽象絵画など当時の現代美術は含まれていないという。コレクションの中で最も新しいものは、この20世紀初頭のフォービズムやキュビズムなどのモダン・アートであり、なかでも、本展に登場しているピカソの3作品のうちの1作は、本展で一番新しい年代の作品である。ここで思い出したいのが、これまでの第1章からの一連の流れ。300年もの間の、西洋絵画の様式が変化していく様子が手にとるようにわかる。ビュールレ・コレクションの特徴をギュッと凝縮した本展の見どころの一つである。

最後に一つ、あらゆるところで散々出つくしているけれど、「イレーヌ嬢」の作品はやっぱりここでも紹介しておきたい。というのも、記者会見で深谷氏が「“本物の違い”、そして“本物を見ること”の素晴らしさを実感させてくれる作品群であり、展覧会です」といっていた言葉を、まさに、ひときわ強く感じさせてくれた作品であるからだ。展覧会のポスターやチラシで幾度となく見てきた作品だが、いざ本物を目にすると、印刷物で見てきたものとはまったく違うのである! とくに髪の毛の描写なんて、絹糸のようにふっわふわで、またまばゆく輝いているのだ。まさしく“本物”の力であり、写真でもそれは伝えられない。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》1880年


総展示数64点。特別展としては少ない方かもしれないが、一つひとつの作品をじっくり見るにはちょうどいい数である。また作品と作品の間に余裕をもって展示されているため、初日で鑑賞者が多かったにもかかわらず、割と見やすかった。そして何よりも、いずれの作品も傑作なのである。こんな名作揃いの展覧会はなかなかない。会期中、もう一度見に行きたいと心より感じたのであった。

All images:©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland)
 

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