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知るほどに作品の見方、感じ方が変化する。「至上の印象派展」勉強会【レポート】

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木下貴子
2018/05/31
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九州国立博物館にて5月19日(土)に開幕した「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」。展覧会に先駆け、4月15日(日)に開催された勉強会を振り返ってレポートします。講師は、元・福岡アジア美術館館長の安永幸一氏です。

会場は、西日本新聞会館16階にある「アイ&カルチャ天神」。日曜日にも関わらずたくさんの人が集まりました。

安永氏は1999年開館の福岡アジア美術館の初代館長を務める前は、福岡市美術館に在籍していました。1974年より福岡市美術館設立準備に携わり、1979年の開館より同館学芸課長、副館長を歴任しています。1990年代に展覧会準備のため、頻繁にフランスを中心にヨーロッパに行かれていたという安永氏。「その一つ、セガンティーニ美術館展を開催するにあたりスイスを訪れたときに、同行した西日本新聞の担当者に誘われてビュールレ財団コレクションも見に行ったんです」と話します。「当時、ビュールレ・コレクションについてはあまり知らなかったんですが、見るとその素晴らしさにうっとりしたのを覚えています」。
 

安永氏

「ビュールレ・コレクションは美術史に基づいたコレクションであり、質の高いものが集められている。これが大きな特徴です」。「(パリ・サロンから独立して1874年に開催された)第一回独立展(後の印象派展)でモネが出品した《印象、日の出》から、印象派という名前が出来ました」。「印象派グループが生まれるきっかけを作ったのがマネであり、彼を慕って若い画家たちが集まってきたのです」……などなどビュールレ・コレクションや印象派にまつわる話をひととおりされ、作品解説へ。

安永氏は「至上の印象派展」で展示される64点のうち印象派に焦点をあて、さらに12点に作品を絞って解説していきました。

最初に登場したのは、印象派の中心的人物であったマネの作品です。《オリエンタル風の衣装をまとった若い女》と《ベルヴュの庭の隅》が紹介されました。

エドゥアール・マネ《ベルヴュの庭の隅》1880年

 

「マネは印象派の元を作りはしましたが、印象派風の作品を作ったかといえばそうではありませんでしたし、『印象派展』には一度も参加していません。ですが、晩年の作品を見るとマネも若干印象派風に、若い人の影響を受けているなという感じがします。特に48歳の時に描いたこの作品(※マネは51歳で死去)は、《オランピア》など有名な作品とはまったく作風が異なり、花園で本を女性が読んでいるという非常に印象派風になってきていますね。マネは印象派展には参加しませんでしたが、印象派の作家たちとは仲が良く、交流の合間に染まっていったであろうと考えられます」。

 

続いて紹介されたのはモネの《ジヴェルニーのモネの庭》と《睡蓮の池、緑の反映》でした。「印象派=(イコール)モネ。印象派という言葉はモネのためにあるといってもいいくらい。最も印象主義の理論に基づいて作品を描いた、それがモネだと思うんですね。光を的確に捉える……刻々と変わる自然の光の変化をいかに画面に定着していくか、というのがモネの生涯に通じた印象派に対する一つの考え方です」。

クロード・モネ
《睡蓮の池、緑の反映》
1920-1926年

「モネが最期に描いていた有名な睡蓮ですね。約200点の睡蓮の作品を残しています。モネは睡蓮を描くために、別にガラス張りのアトリエを建て、ガラス越しに池の睡蓮を見ながら描いたといいます。睡蓮の水面上の変化を描き続けていたんですが、やがて睡蓮を部屋全体に描きたい、つまりパネル状で展示したいという構想になるわけです。オランジュリー美術館の作品が有名ですね。ビュールレは1950年頃にモネのアトリエにいって、その後、3点を購入しました。こちらはそのうちの1点です。大変素晴らしい睡蓮の作品です」。

 

そして、いよいよ展覧会の「超目玉」であるこの少女の登場です。

ピエール=オーギュスト・ルノワール
《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》
1880年

「サロンに入選し評判を得たルノワールに、ユダヤ系の銀行家であるカーン・ダンヴェール家より三人の娘の肖像画を依頼され描いたもので、ルノワール自身も描いている途中から『これはすばらしい、サロンに出品しよう』と思ったようです。精魂込めて描いた会心の一作でありました。顔の輪郭、表面、あるいは髪の感じ、手の感じ、そういったものが印象派の光をとらえていた時代とは比べ物にならないほど素晴らしいものです。イレーヌ嬢がこの作品の相続権を娘に与えたのですが、その娘が後に第二次世界大戦のホロコーストにあい、手を離れてしまいます。その時点でこの作品は埋没しても不思議ではなかったんですが、戦後すぐ1946年にオランジュリー美術館で開催された展覧会に出品されていたんです。それでイレーヌさんが手を挙げて彼女のところに戻ったようですが、その3年後にビュールレさんに直接譲られたようです。なぜ、自身で相続しなかったのか、愛着がなかったのかと疑問が湧きますが、それには時代の複雑な理由、厳しい歴史などそういうものがあったのかもしれません。そういうことを考えると余計、この作品に価値があるように感じます」。

 

さらに注目作品としてポール・セザンヌ《赤いチョッキの少年》が解説されました。

ポール・セザンヌ《赤いチョッキの少年》1888-90年

「セザンヌの中でも有名な作品で、ビュールレ・コレクションにこの作品が加わっているのを私も知らなくて驚きました。なぜ有名かというと、少年の右手が異様に長く、また顔が少し小さく描かれています。『自然は円筒形と球形と円錐形に集約できる』というセザンヌの有名な言葉がありますが、そのセザンヌが目指した構築の走りの作品といわれています。実際にあるものを描いたようでそうでなく、頭の中で構築し自然に見えるように描かれています」。

 

あたりまえのことですが、作品一つひとつが描かれる、作られる背景には一つひとつの異なる作家の考え、あるいはストーリーがあります。作品について深く知ることで、作品の見方や感じ方もまた変化する、ということを改めて感じられた勉強会でした。

 

「至上の印象派展」の会場でも解説パネルはもちろん、音声ガイドも用意されています。それらを利用して作品の背景まで深く入り込み、作品とじっくり向き合いながら作品鑑賞を楽しんでみてはいかがでしょう。

All images:
©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland)
Photo: SIK-ISEA, Zurich (J.-P. Kuhn)

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