特別展「浄土九州ー九州の浄土教美術ー」
2018/09/15(土) 〜 2018/11/04(日)
09:30 〜 17:30
福岡市博物館
伊勢田美保 2018/10/04 |
人は死んだらどうなるの?地獄へ落ちたらどうしよう!そんな不安を抱いたことが、誰しも一度はあるのではないでしょうか。ご先祖さまも、「できれば浄土に生まれたい…」と願い、やがてそれは阿弥陀如来に救いを求める信仰となり、苦しみの多いこの世を生きる人々の心の拠り所として、さまざまな浄土教美術を生んだそうです。
今回、史上初の〝九州全域〟に視野を広げ約200点の浄土教美術を集結させた展覧会「浄土九州ー九州の浄土教美術ー」が、福岡市博物館で開催中。
正直なところあまり熱心な信者でもなく、知識もなかった私…。そんな私でも楽しめるのか!?早速行ってきました!
会場を巡る前にまず頭に入れておきたいのは、日本人の生き方に深い影響を及ぼした浄土信仰は、今から約1000年前の平安時代、末法(まっぽう)思想の流行とともに盛んになったということ。末法思想とは簡単に言うと、『釈迦の説いた教えが、年代が経つにつれて正しくない教法で出回り、修行や悟りが得られなくなること』。そして人々は地獄へ落ちる怖れと、極楽浄土への憧れを強めたそうです。また鎌倉時代になると「十王経」に基づく地蔵・十王信仰が広まり、亡者を裁く裁判官・閻魔王を始めとする十王と地獄が結びつき、「地獄と極楽」のイメージが定着したのだそう。
それでは早速、その「地獄と極楽」がテーマの、第1章へ。
こちらは<十王地獄図>。閻魔王が亡者を裁き地獄へやるさまを描いています。恐ろしい描写ですが、閻魔王も亡者の髪の毛を掴みとる鬼も、どこか愉快な表情です。
お次も、作例の多い近世の地獄図の中で注目すべき大作。目をくり抜かれる亡者や舌を牛耕される亡者など想像を超える責め苦…!
続いては<奪衣婆坐像(だつえばざぞう)>。
奪衣婆とは、十王経に登場する、三途の川のほとりで亡者の衣を奪う老婆。隣には老爺がおり、木に衣を掛け枝のしなり方で罪の重さを測り、三途の川の渡り方が決まるのだとか。こちらは鎌倉時代末期に木彫りされたものとされ、九州最古の奪衣婆坐像だそうです!それにしてもリアリティがすごい。
地獄もあれば極楽もあるのが救い。その一つが展覧会の目玉である<当麻曼荼羅(たいままんだら)>です。曼荼羅とは西方極楽浄土を描いたもの。今は京都の禅林寺に所蔵されていますが、かつては熊本の満善寺にあったもので、今回初めて九州に里帰り。縦横約4mと天井まで届きそうな大きな一枚の絹地に、極楽浄土で説法する阿弥陀如来を中心に多くの菩薩たちが描かれています。当時の人々も、これを見て極楽浄土を夢見たのでしょうね〜。
続く第2章のテーマは「九州の浄土信仰と聖光上人」。平安時代後期には浄土信仰が広まり、その中心となった西方極楽浄土のほとけ、阿弥陀如来像が各地で作られるようになります。鎌倉時代になると、浄土宗を開いた法然上人の専修(せんじゅ)念仏の教えを受け継いだ聖光上人が、筑後や肥後地方を中心に念仏を広めました。
漆箔で黄金色に輝くお姿が神々しい<阿弥陀如来坐像>。来迎印と呼ばれる手の形は、死者の魂を極楽浄土に導く意味をあらわすとか。
腹部に帯を巻き安産にご利益があるとされ、「腹帯の阿弥陀」とも称される阿弥陀如来坐像は、なんとも優しい微笑みをたたえています。
こうして見ていると、着衣や輪郭、表情など一つとして同じものがありません。当然ながら、当時の仏師が一つ一つ念を込め手作りしたのだなと、その思いの深さも感じます。
また法然上人が説いた専修念仏の教えを九州に広めた〝浄土宗第二祖〟聖光上人の肖像も。特徴的に盛り上がる額、ふっくらとして穏やかな顔、太い指。実に写実的で、まるで生きているかのよう!
なんでしょう、阿弥陀様や聖光上人に正対していると、心が少しずつ癒されていくような気持ちに…。
と、ここで、何やら白い布で丸く囲われた一角が出現。これは一体?
その正体は、特別映像シアター。佐賀県ゆかりの美術家、中島潔さんによって、地獄世界がアニメーションで表現されています。主人公・小太郎が、これまで人生で犯した罪を問いかけられ、さまざまな地獄を味わい尽くした末、やがて魂が救済されるというストーリー。とてもわかりやすいし、映像も美しかった!
第3章は「来迎するみほとけ」。人々は極楽に往生したい、阿弥陀如来の姿を見たいと切に願い、阿弥陀如来を様々な形に表しました。
阿弥陀如来が観音、勢至菩薩を伴い、亡者を迎えに来たさまを描く<阿弥陀三尊来迎図>は、臨終を迎える人の枕元に掛けられていたのだとか。
展示もいよいよ終わりに近づき、迎えてくれるは「萬行寺(まんぎょうじ)の寺宝」。戦国時代以降、九州で浄土真宗が大きな広がりを見せる中、博多では蓮如上人の弟子、空性(くうしょう)によって萬行寺が開かれました。ここではその寺宝が見られます。
<阿弥陀如来立像>は、鎌倉時代の一流仏師が制作したとあって、着衣に施された切金文様が素敵!輪郭を捉えた衣のシワやたるみもとても美しく、見入ってしまいました…。360度全方位から見ることができるので、ぜひいろいろな角度から見てみてほしいです。
会場の最後には、大分県日田市出身の現代美術家、宇治山哲平さんが大超寺に奉納した襖絵や、その本堂で行われる「百万遍」の巨大念珠も。ちなみに百万遍とは仏事の一つで、1080個の珠を連ねた念珠を10人で100回「南無阿弥陀仏」と称えながら順送りすることで、合計108万回念仏を称える効果があるのだそうです。
鑑賞を終えて。
阿弥陀如来像に来迎図、地獄図や極楽浄土を描いた曼荼羅…と展示内容はバラエティに富み、仏教に詳しくない私でも満足感でいっぱいになりました!重要文化財や寺外初公開の作品も数多く集まるこの機会は貴重です。でもここで紹介したのは、ほんの一部。ご先祖さまたちの生き方に深い影響を及ぼした浄土信仰とはどんなものだったのか、ぜひ会場で体感してみてください。展覧会は11月4日(日)まで。
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