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GALLERY SOAP「Unidentified Landscape / HOTEL ASIA 2018」展【レポート】

2019/02/01 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

1997年5月に北九州で設立されたGALLERY SOAPは、展覧会、音楽イベント、映画上映会、シンポジウムなどさまざまなイベントを開催し続けているアーティストラン・スペースです。2019年1月26日(土)~2月2日(土)開催の「Unidentified Landscape / HOTEL ASIA 2018」について、元・北九州市立美術館学芸員でGALLERY SOAPとも関係の深い花田伸一さん(キュレーター/佐賀大学芸術地域デザイン学部准教授)に寄稿いただきました。(編集部)

GALLERY SOAP 外観・内観

GALLERY SOAP はJR小倉駅から徒歩10分とかからない都心部のアートスペース。開設は1997年5月。展示スペースに加えてカフェバーもあるので、美術家、音楽家、建築家、研究者などが出入りしては芸術談議に花を咲かせ、その磁場に吸い寄せられて国内外の美術関係者もリサーチに多く訪ねてくる。

「HOTEL ASIA PROJECT」WEBサイト

運営者の宮川敬一は1990年代から活動するアーティストであり、「パラサイト・プロジェクト」(1996-97)、「北九州国際ビエンナーレ」(2007-)など種々の実験的なアートプロジェクトの仕掛け人でもある。
その宮川と、美術家の佐々木玄、社会学者の毛利嘉孝などが、2011年から複数の国にまたがる美術家、音楽家、研究者たちと取り組んでいるのが「HOTEL ASIA PROJECT」。ヒト・モノ・カネ・情報が国を超え、すごい勢いで移動する現代社会。日本国内においても観光・買物・仕事のため来日した外国人を町で見るのはもはや当たり前すぎる風景となった。そうした状況をふまえ同プロジェクトでは美術展、映像上映、レクチャー、フォーラム、音楽イベント等を通じて「多言語状況にある私たちの世界をリアルに捉えなおそうという試み」に取り組んでおり、これまで、2011年「HOTEL ASIA」、2012年「主題公園 THEME PARK」、2015年「REAL ESTATE / LANDSCAPE」、2016年「LANDSCAPE / HOTEL ASIA」とのタイトルのもと展開されてきた。

「Unidentified Landscape」展会場風景(GALLERY SOAP/北九州)

2018年から19年にかけては「Unidentified Landscape」(未確認風景/特定されない風景)とのタイトルを冠し、美術、音楽、映画、トーク、リサーチ等を通じて「風景」という切り口から現代社会の様々な側面を浮かび上がらせた。これまでインドネシア・ジョグジャカルタ、台湾・台北、中国・重慶、オーストリア・ウィーン、日本・那覇を巡回し、最後の会場として2019年1月26日(土)から2月2日(土)にかけて小倉の GALLERY SOAP にてグループ展が開催された。

高橋相馬《A House》絵画、2018年

高橋相馬(1992年生、那覇在住)は風景画《A House》を展示。俯瞰で描かれた一軒家は沖縄駐留米軍払い下げのいわゆる「外人住宅」。合理性・機能性を凝縮したシンプルな形のいかにもアメリカ的なモダンなデザインだが、風土に晒され醸成される壁の色合いや庭の植生に地域性が感じられる。作者は制作のモチーフとして、地域性を感じさせつつ人々から気にかけられず存在感が薄れていく人工物に興味を覚えるとのこと。作者が関心を向ける対象のあり方と現代の「絵画」のそれとが私には重なりあって聞こえた。

手塚太加丸《石を動かして積む》ビデオ、2016年

手塚太加丸(1990年生、那覇在住)は山の中で石を積む様子を記録した映像作品《石を動かして積む》を出品。作者の出身地である屋久島にて撮影したもので、映像には特に目立った演出や編集を加えておらず、行為も記録もシンプルで荒削りな野生味を湛える。美術大学でカッコ付の「表現」を学ぶ世界からずっと遡って、人類にとって原始的かつ根源的な営みを問う。言葉の違いや国の違いを超えた普遍の風景にタッチする試みといえるだろう。

ユー・グオ《長焦点ビデオグラファー》ビデオ(10’15’’)、2017年

ユー・グオ(1983年生、重慶在住)による映像作品《長焦点ビデオグラファー》は焦点距離8000mmのデジタルカメラにて撮影されたもの。遠く離れた距離から撮影された対象はクッキリとした像を結ばず朧げなイメージとなって亡霊のごとく画面内を漂う。デジタルツールを通して見る風景の揺らぎがデジタル社会に生きる私たちの存在感の不確かさを思わせる。

シュチャン・シェ《per song》ビデオ、2016年

中国・重慶出身の映画監督シュチャン・シェ(1998年生、ハンブルグ在住)の初期作品《per song》は現代の中国に生きる若者たちの日常をドキュメンタリー的手法で描きだしている。派手な映像効果やドラマティックな動きはなく、淡々と切り取られた日常会話の断片から、現代中国の若者のリアルが浮き彫りにされる。友人・恋人・家族たちとの会話は時には淡々と事務的に、時に激情のトーンを帯びてエモーショナルに交わされる。中国語の会話と英語字幕のみで、日本語話者には言語的な理解は追いつかないにしても、言葉の向こうに渦巻く若者たちのヒリヒリした感情はありありと伝わってくる。

ピシタクン・クアンターレ《WHAT’S ON YOUR MIND》ライヴパフォーマンス

1月27日(日)のイベントではアーティストトークのほか、映画上映とライヴパフォーマンスが行われた。
ピシタクン・クアンターレ(1986年生、バンコク在住)はネット上に飛び交うイメージをコラージュした映像とクラブサウンドによるライヴパフォーマンス《WHAT’S ON YOUR MIND》を行った。映像では1980年代のテレビゲームを思わせるような陽気でチープな背景に、戦争、ポルノグラフィ、ホームレス、古代生物などをモチーフとしたイメージが浮かんでは消え、消えては浮かびを繰り返し、既視感のオーバーフローともいうべき目まいを起こさせる。

最後に「Unidentified Landscape」とのテーマに関して、沖縄タイムスの取材に対して宮川は「同じ文脈の問題が世界中にあり、ぼくらは美術という共通の言語で考えなくてはならない」として、「どこでもない風景、というテーマは、地域の問題をなしにする」ことではなく「そこだけの問題ではないということを考えること」だと語る。つまり「Unidentified」(不特定)なのは風景というよりも問題の在り処なのである。遠くで起こっていて一見自分とは関わりの無さそうな問題でも、実は私たちの身近なところでも起こっており、その根っこは繋がっているということだ。
「みんな違ってみんないい」のではなく、劇作家の平田オリザがいうように「みんな違って大変」だ。一見理解しにくそうな他者とどう向き合うか、どう近づき、離れ、折り合いを付けていくか。私たちはその事前練習を十分にしないまま待ったなしでどんどん本番を迎えている。私たちにとって心地良いものも苛立たせるものも「ごちゃ混ぜ」状態となって社会には渦巻いている。そのカオスに満ちたなエネルギーのぶつかり合いの中に丸ごと身を置いてみて、その飲み込みにくい状況を飲み込みにくいなりに咀嚼してみること。ここでいう美術の営みとは、グローバリズムに覆われる日常の風景を前にして、翻訳や通訳を介して形を整える前に、まずは体当たりで丸ごと向き合ってみる練習なのだ。

 

花田 伸一(はなだ・しんいち)
キュレーター/佐賀大学芸術地域デザイン学部准教授

1972年福岡市生まれ。佐賀市在住。北九州市立美術館、フリーを経て2016年より現職。主な企画『6th北九州ビエンナーレ~ことのはじまり』『千草ホテル中庭PROJECT』『ながさきアートの苗プロジェクト2010 in 伊王島』『街じゅうアート in 北九州2012 ART FOR SHARE』『ちくごアートファーム計画』『槻田アンデパンダンー私たちのスクラップ&ビルド展』。企画協力『第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014』『釜山ビエンナーレ2014特別展』他。

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