江口寿史展
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福岡アジア美術館
2020/08/08 |
ARTNEでは、2020年5月21日に他界された福岡市の画家、菊畑茂久馬さんを追悼し、過去、菊畑さんが西日本新聞で執筆した書評や本についてのコラムを連載します。
【第12回】清原玉という画家 明治の女性の粋と矜恃
近年女性の活躍が目覚ましいが、昔こんな女性の洋画家がいた。名は清原玉、ラグーザ玉ともいう。美術書には全く出ないから、ほとんど知られていない。
先年「彷書月刊」(彷徨舎)が彼女の特集を出すとかで、拙文を書き送ったが、届いた雑誌を見てびっくり。森まゆみ、青木茂、山梨絵美子氏ら、錚々(そうそう)たる方々が六人も稿を並べておられた。専門家はちゃんと彼女を押さえておられる。
清原玉は、工部美術学校の外国人教師ラグーザが帰国する明治十五年に一緒にイタリアに渡った。二十二歳だった。彼(か)の地でラグーザと結婚し、以来五十二年間、本場イタリアで大活躍した。その間里帰り展とか、錦を飾るとか、そんなケチな了見は一切なし。一度も帰国しなかった。ラグーザの死去で帰国した時は、七十三歳であった。
東京の生家に戻った玉は、西欧での名声などどこ吹く風。終日静かに画室で制作に没頭して、ひっそりと七十八歳の生涯を終えた。日本の洋画の夜明けに、異国の地で半世紀、母国ではすっかり忘れられていたが、それでもただ一人、得意の絵筆で堂々と生き抜いた明治女の粋と矜恃(きょうじ)には惚(ほ)れぼれする。(画家・菊畑茂久馬)
▼きくはた・もくま 画家。1935年、長崎市生まれ。57年-62年、前衛美術家集団「九州派」に参加。主要作品に「奴隷系図」「ルーレット」「天動説」の各シリーズ。97年に西日本文化賞、2004年に円空賞をそれぞれ受賞。「絵かきが語る近代美術」など著作も多い。2020年5月に他界。
=2007年11月4日西日本新聞朝刊に掲載=
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