江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
山出淳也 2021/03/11 |
カイチョウ
カイチョウと呼ばれる人がいる。
2000年春に福岡の田川で出会った。ボリさんという破天荒な先輩が田川にギャラリーを作り、僕を招いてくれたことがきっかけだ。
それにあわせて田川の美術館も個展を企画してくれたので、それらをつなぐ計画を考えた。市民からたくさんの古着を集め、壊れかけた数台の洗濯機とともに、ギャラリーに設置した。美術館には何も置かれていない丸いテーブルを用意した。
2週間、毎日僕は古着を洗濯した。オープンしたばかりのピカピカのギャラリーを水浸しにして、ボリさんに無茶苦茶(むちゃくちゃ)怒られた。そして「干す場所を探している」と滞在中に出会った人に話しかける。乾いた衣類を美術館に運び、テーブルの上に畳んで並べた。日に日に山のようになった。来館者はそれらを持ち帰ることができる。僕のアートはいつもそんな感じだ。
ある日、いつものように洗濯していた。そこにボリさんの友人、カイチョウが現れた。怪訝(けげん)そうな顔つきで僕を見て、「おまえは洗濯屋か?」と言った。今書いたような回りくどいことを伝えていると、「つまり洗濯が好きっちゅうことやな」と遮って話は終わった。
何日かして、またカイチョウが来た。「飲みに行こう」とスナックに誘ってくれた。『青春の門』そのままな若い頃の話を聞いた。「林檎(りんご)を歌え」と言われたので、頑張って歌った。「あいつはな…」と、椎名林檎のデビューの頃からの話をしてくれた。カイチョウはライブハウスを運営する会社の会長で、若いミュージシャンを全国に送り出している。育てられたミュージシャンは相当数いるのだろう。
「20歳になった子たちにはもっと上を目指せと言う。30歳になっても売れてなかったら、人生、他の道もあるんぞと言う。40歳になってまだくすぶっていたら、一生やれと言う。音楽奪ったら何が残る? ほとんどが売れない、無名なやつばかりや。でも俺は全員のこと覚えとうぞ。いいやないか、プロやなくても」
そう言ったカイチョウの顔が忘れられない。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(12月10日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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