江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
山出淳也 2021/03/09 |
そこに愛はあるのかい?
高校時代に通った画塾のセンセイは時々事務所を訪れて、若いスタッフにハッパをかける。
「そこに愛はあるのかい?」と皆に問い、演説はクライマックスを迎える。いつかのテレビドラマの名ゼリフ。最近の若者は知らないだろうなぁと僕は思い、でも問われた若者たちは皆、その真意を深く理解する。センセイの言葉に愛を感じるからだ。話の内容はいつでも「今取り組んでいる仕事は、誰かを幸せにしているのか」ということ。
うちはNPOと言っても、県内外問わず、年間50件くらいの案件を請け負っている。行政から依頼を受け計画づくりから実行まで携わり、守秘義務のある企業の案件も少なくない。ジャンルもバラバラ。文化振興をはじめ、観光に関すること、商品の企画、移住計画、人材育成など幅が広い。
期待に応えなければと職員も日々忙しく、時間に追われている。忙しくなれば心を亡くす。ゆとりが持てず、目の前のことしか見えなくなる。今取り組んでいることは誰の幸せにつながるのか、と考えることを忘れてしまう。決まって誰よりも先にパニックに陥るのは僕で、そしていつでも誰かが救ってくれる。
2012年12月、2回目の芸術祭『混浴温泉世界』の最終日のことだ。フィナーレの準備に慌てていた事務所に女性の声で電話がかかってきた。
「長年連れ添った主人が亡くなり、目の前の風景からいなくなったんです。食卓に座ると灰色の冷蔵庫が目に入るようになりました。毎日見続けているうちに、どうしても気が滅入(めい)ってしまう。メーカーに電話して、もっと心が晴れるような色の冷蔵庫を作ってくれないかと何度も伝えましたが、この小さな希望はいまだ叶(かな)えられません。でも、アートの力であれば、この冷蔵庫を明るくすてきな色に変えることはできないですか? 皆さんの力で変えてもらうことはできませんか?」
名前も名乗らず電話は切れた。その日から僕たちは彼女の電話を待ち続けている。必ず望みを叶えますからね、絶対に。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(12月9日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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