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福岡アジア美術館
藤浩志 2017/09/21 |
美術家の藤浩志さんによる「地域と美術のすきまのやもり」が始まります(ARTNEでの連載は毎週火・木・土の予定)。
藤さんは1960年、鹿児島市生まれ。京都市立芸術大大学院美術研究科修了。1986年から2年間、青年海外協力隊員としてパプアニューギニアで美術を指導しました。その後、「ヤセ犬」シリーズのような彫刻作品から、不要のおもちゃを持ち寄り、交換する「kaekko」プロジェクトまで多彩な表現活動を展開。自宅・アトリエを福岡県糸島市に構えながら、2014~2016年には青森県の十和田市現代美術館長を務め、現在は秋田公立美術大教授・副学長として学生と向き合っています。
連載では、藤さんが過去の記憶を自ら編集しつつ、活動を通じて考えてきたことや美術と地域の関係をつづります。挿絵も毎回藤さんが手がけます。ご期待ください。(編集部)
筆者の言葉
まさか自分がこんなに美術と関わるとは思ってもみなかった。美術と地域の周縁をうろつきながら、何かすごいことができないかとじっと狙っている。その姿をやもりと重ねた瞬間に、なんだか生き方の方向性が滲みでてきた。ということで、やもりの視線でこれまでの活動の周りのことなどを書いてみたいと思います。
やもりになりたい
パプアニューギニアの自宅の天井は真っ白の半円形のかまぼこ状で、その中心に大きなプロペラ扇風機が吊(つ)り下がり風を送っている。昼間は40度を超える暑さだが、夜になると涼しい。部屋の隅に置かれた椅子にすわり、ぼんやりと、扇風機の回転を眺める。鳥や虫の鳴き声が心地いい。
視線をそらすと、やもりが天井でじっとしている。かわいい。1匹、2匹、3匹。白い天井に白いやもりが張り付いているが存在感がない。さらに目を凝らして部屋を見ると、焦げ茶色のブロック壁にもやもりが1匹潜んでいる。そいつは黒っぽい。4匹。さらに壁の隙間から頭を出したやつが1匹。今日は5匹いる。テレビもインターネットも雑誌もないここでの一人暮らしにはやもりさえもが娯楽になっている。
やもりはたまに動く。虫の獲物を狙っているのだ。瞬間的にぱぱっと移動して、またじーっと動かなくなる。ある日、茶色の壁の隙間にいたやもりがちょろっと動き、白い天井に移動して、じっと動かなくなった。「おい、丸見えだぞ」。黒色の体は白い天井ではとても目立つ。かわいい。そのうちじわーっと白くなってゆく。やもりは体の色を変えることができるのだ。知らなかった。
時々「かっかっかっかっ!」と大きな鳴き声が聞こえた。外で鳥が鳴いているのかと思っていたが、実はやもりが鳴いているのだと知って驚いた。熱帯雨林のやもりは部屋中に響く大きな声で鳴く。目の前の獲物をその声で撹乱(かくらん)し、パクッと射とめるのだ。
「しっかり自分の色を持て、自分の考えを持て!」と諭されて生活してきた。しかし、人の意見を聞くたびにその意見が正しく思えてくる。他の意見を聞けば、その人が正しいように思える。はっきり言ってどっちでもいい。「なんて優柔不断な奴(やつ)だ!」と怒られた。しかしこのやもりはどうだ。自分の色を周辺にあわせて変える。しかし確実に相手を射とめる声を発することができる。うーん。やもりのように生きてみたいと思った。
(美術家。挿絵も筆者)=6月29日西日本新聞朝刊に掲載=
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