九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  連載記事 ›  【連載】山出淳也 アート、まちに出る 48

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 48

Thumb micro 6f691dcb2f
山出淳也
2021/05/20
LINE はてなブックマーク facebook Twitter

国東半島

 陸上交通が発達する以前、瀬戸内に開かれた九州の玄関口。それは、大分県の北部・国東半島だった。

 半島のほぼ中心に位置する両子(ふたご)山から海岸に向け放射状に伸びる峰。ゴツゴツとした岩肌の谷に囲まれた集落には、独特の文化や習慣が残る。鬼が家を巡り歓待される「修正鬼会(しゅじょうおにえ)」。海洋の民・異人を受け入れてきたこの半島の記憶をも感じさせる祭りだ。

 1300年ほど前、八幡信仰に仏教が取り入れられた「六郷満山」と呼ばれる山岳宗教が形成された。神を仏とし、仏を神とする「神仏習合文化」の発祥地がここ国東半島だ。異なる考えを認め共存するという、日本人の独自の思想・理念が、今もなおここには残っている。

 2014年、この半島を舞台に芸術祭が開催された。僕はそのディレクターとして関わった。準備に3年をかけ、アートを道標に山の奥深くを歩き地域の想(おも)いを知る、そんな芸術祭を企画した。

 作品のいくつかは今も残る。いずれも、ここに来なければ体験できない、その場所ならではの作品だ。

 その一つ、英国人の巨匠アントニー・ゴームリーの彫刻を国東市の山頂に設置した。瞑想(めいそう)や仏教を学んだ経験からアーティストの道を選んだ彼に、僕はこの半島の歴史や神話について語り続けた。一通り、僕や地域の方の話を聞くと彼はこう言った。「なぜ君たちは未来の話をしないのか。私は過去と未来をつなぐための作品を作りたい」

 ゴームリーによる鉄でできた人体像を鑑賞するためには、山道を80分程度かけて登らなければならない。ここは、多くの砂鉄が採れたことで知られている。かつては刀を作る産地であったようだ。火を入れ、砂鉄は固まり鉄となる。この地域の灯(あか)りとなることを願い、住民の助けを借りて設置されたこの作品。日々錆(さび)が進み砂となり、数百年かけて山に還(かえ)る。今はその途中だ。

 今年、ここにアーティストのシマブクさんの作品が仲間入りする。海との関係から着想された、過去と未来をつなぐ物語が生まれようとしている。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(1月19日付西日本新聞朝刊に掲載)=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini b174c4cce3

ホキ美術館所蔵名品展~超絶リアリズム絵画~

2024/09/07(土) 〜 2024/10/13(日)
福岡アジア美術館

Thumb mini 77e5fe018a
終了間近

古賀が生んだ特撮美術の匠 井上泰幸のセカイ展

2024/09/07(土) 〜 2024/10/06(日)
リーパスプラザこが 歴史資料館ギャラリー

Thumb mini 94e704ab04
終了間近

弥永隆広展 -narrative-

2024/09/20(金) 〜 2024/10/06(日)
EUREKA エウレカ

Thumb mini d06cd6fa15
終了間近

画業40周年記念
清水玲子原画展

2024/09/21(土) 〜 2024/10/06(日)
長島美術館

Thumb mini 969382189f

ふくおか県芸術文化祭2024 オープニングフェス

2024/10/05(土) 〜 2024/10/06(日)
天神中央公園、アクロス福岡1Fアトリウム

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini cf450a4561
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 47

Thumb mini 550d6cf336
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 46

Thumb mini 2ab42bfc8a
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 45

Thumb mini 53dd125440
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 44

Thumb mini 105ebc9778
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 43

特集記事をもっと見る