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【連載】山出淳也 アート、まちに出る 49

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山出淳也
2021/05/25
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Imagine

 国東半島・豊後高田市の一番北側に、長崎鼻と呼ばれる岬がある。

 かつては畑が広がっていたこの岬。生産者の高齢化や人口減少で長らく耕作放棄地となっていた。10年近く前、この岬を花畑に変えようとNPOが生まれた。今では春は菜の花、夏はひまわり、秋にはコスモスと季節それぞれの花が咲き、人々が集う岬へと変わり始めている。

 2014年の芸術祭では、この岬も会場となり2人のアーティストが作品を設置した。その1人がオノ・ヨーコさんだ。

 ヨーコさんは国東石によるベンチを13基制作し点在させた。岬一帯を歩き、休息を取るためにベンチに座る。足元には石板が置かれ、文章が彫られている。その碑文は想像力を喚起させる指示のようなもの。ベンチに座り、その詩を読み、季節を感じ、目の前の遥(はる)か向こうに想(おも)いを馳(は)せる。それらの詩は全て、1964年に発行された詩集『グレープフルーツ』から、設置される風景に合わせてヨーコさん自身が選んだ。例えば、こんな詩だ。

 ―風のための絵―

 種をいっぱいに詰めた袋に穴をあけて
 /その袋を風が吹くところに
 /置きなさい

 この詩集に触発されて生まれた曲が、ジョン・レノンによる『イマジン』だ。「想像してごらん」から始まるこの名作が生まれ、今年で50年。それでも、まだまだ世界は暴力にあふれ、分断は進み続けている。

 「大空を飛んでみたい」。そんな想像をしたからこそ何世代もかけて実現できたように、未来は僕たちが想像し、行動することによってしか生まれない。「夢想家」だと言われても、「世界はひとつになれるんだ」とジョンは唄(うた)い続けた。未来の可能性を諦めない一人一人の想いによって、世界は変わることができる。

 ヨーコさんは『念願の木』という作品も残した。岬を訪れた人々に、短冊に願いを書いて木に結びつけることを促す。

 「友達と仲直りができますように」

 短冊に書かれた小さな希望は、今日も静かに風に揺れている。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(1月20日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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