ホキ美術館所蔵名品展~超絶リアリズム絵画~
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2021/12/28 |
芸術祭「in BEPPU」は、大分県別府市に毎年1組のアーティストを招聘(しょうへい)し、日本でも有数の温泉地としての地域性を活かして行われるアートプロジェクト。「越後妻有 大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」で知られる「芸術祭」は、国内外から多くのアーティストが参加する規模の大きさが魅力だが、「in BEPPU」は、あえて個展形式で開催する独自のスタイルをとる。今年は服飾デザイナーの廣川玉枝が別府に入り、先週から開幕した。
全国各地に普及したこの芸術祭形式の現代美術の祭典だが、コロナ・パンデミック以降は苦戦が続いている。海外からアーティストが来日できず、街に開かれた展示は密になりやすい。そもそも観光と一体化したところに最大の特徴もある。美術館での展覧会がコロナ禍での開催ペースを取り戻しつつあるのと対照的に、芸術祭はいまなお感染拡大のリスクと表裏一体なのだ。
そんななか「in BEPPU」は、国内のアーティストを中心に個展形式で開催してきたことで、コロナ禍でも工夫を凝らし健闘している。とはいえ、複数の温泉をはしごする「地獄めぐり」で名高い鉄輪地区で、街ぐるみの新しい「神事」を始めるという廣川のアイデアは、芸術祭どころか全国各地で祭りそのものが感染拡大防止のため一般の目から姿を消しつつあるいま、実に大胆な挑戦であった。
廣川の着眼は、大地の恵みである温泉が、対極的に「地獄」とも呼ばれる二重性にあったようだ。このような二重性は、まさしく自然の特性でもある。矛盾しているようで、恵みも災害もあくまで人間目線のものだ。それなら自然に根ざした祭りそのものにも、こうした二重性が本来備わっていたはずだ。温泉という「極楽」を舞台とする祭りが、同時に「鬼」が出没する「地獄」であって、なんの不思議もない。
廣川は、この鬼を折口信夫に由来する「まれびと」として設定し、火をモチーフに、外からの到来者として個性豊かにデザインした。確かに温泉は、外の人と土地の人が「火=地熱」を媒介に絶えず交わり続ける現場でもある。日常が祝祭化していると言ってもいい。祭りは共同体の結束を高めるために行われると考えられがちだが、実際には逆なのだ。廣川と写真家、石川直樹や脳科学者、中野信子との対談でも語られたとおり、共同体として閉じてしまいがちな地域を外に開くことで新しい「血」を招来し、未来を担保するためにこそ祭りはある。としたら、コロナ禍で排外や分断ばかりが目立ついま、「新しい生活様式」を超えて「新しい未来」を切り開くためにも、五輪のような巨大な「イベント」ではない、新たな祭りが求められているのではないか。
とはいえ、まったく新しい「神事」を突然、街を舞台に始めることが大きな抵抗に遭うことは想像に難くない。言い換えれば、廣川自身が「まれびと」として受け入れられるかどうかは、どんなに準備を重ねても予測は不可能だ。ところが実際に立ち会って見て驚いた。まるで昔から受け継げられてきた行事のように異形の神々は鉄輪に溶け込み、子供たちやお年寄りも巻き込んで、やがて共に踊り、ついには一体の輪となるほどの盛り上がりを見せたのだ。裏返していえば、伝統から切れた「まれびと」としてのアートだからこそ、このようなことが起こり得たのかもしれない。(椹木野衣)
=(12月23日付西日本新聞朝刊に掲載)=
椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。
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