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遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<48> 【連載】家族と他者 呼吸通じて繋がらずして踏み込んだ対話は可能か

2021/10/12 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 一時は国難的なまでに激増していた新型コロナ感染者数が、夏の終わり頃から次第に減り始め、先月末をもって全国各地に出されていた緊急事態宣言、およびまん延防止等重点措置のすべてが解除された。実におよそ半年ぶりのことだった。これから冬にかけて第6波が来襲する恐れも否めないが、ワクチン接種が行き届きつつあることもあり、街は久しい活気に満ちている。

 もっとも、すべてが元どおりというわけにはむろんいかない。飲食店の営業時間短縮やイベントの収容人数制限、外出時のマスクの着用や密を避ける行動などは引き続き守られる必要がある。かつてのように歓楽的な宴会や団体旅行が難しいのは言うまでもない。そんななか、アートや芸術について考える際に重要な鍵となる家族や他者といった概念に、従来とは異なるニュアンスが生まれつつある気がしてならない。

 これらの言葉は、これまでも文化のみならず、思想や哲学について考えを巡らす際、大きな意味を持ってきた。ところが他方で、そうした思索は思弁的かつ抽象的なことが多く、なかなか一般的に感覚を共有するには困難なことがあった。
 

米ハワイの高校生らとオンラインで交流する高校生平和大使ら(2021年8月、長崎市)。
平和大使らは2018年から両国を行き来してきたが、
新型コロナウイルス禍を受け2年連続のオンラインでの交流となった

 ところがコロナ・パンデミック以降、家族とはマスクを外して生活することが可能な最小単位としての具体的な意味を持つようになった。外食の際でも、望めば家族なら飛沫感染防止のためのアクリル板を外してもらうことができる。事実、家族は文字通り「家族」というくらいで、物理的に家というかたちで一定の空間を共有して暮らしている。

 言い換えれば、家族とは空気中に漂う目に見えない雑菌や細菌、ウイルスを身体的に共有しているということでもある。一時、外でのクラスターに代わって家庭内感染が多発した事例を見るまでもなく、家族とは抽象的な制度である以前に、生態学で呼ぶところの「コロニー」にも似て、空気で繋(つな)がる身体や器官の共有でもあったのだ。

 このことは、やはり抽象的な議論の対象となることの多かった他者という概念にも大きな影を落とさずにはおらない。こうした意味での家族にならって言えば、他者とは慣習や価値観の違いより、なにより家族のように呼吸を通じて身体や器官を共有していない者のことを指す。

 逆に言えば、これまで私たちは家族でもないのにしばしば、他者とのあいだに、会議やイベント、宴会や旅行を通じ、一定の空間を共有することで呼吸や飛沫を進んで交換してきた。それはつまり、他者が家族のように身体に巣くう同じ菌やウイルスを共有することでもあったのだ。

 コロナ・パンデミック以降、盛んに活用されるようになった在宅勤務やリモート会議には、同じ勤務や会議であっても、そのような菌やウイルスの共有がない。だからこそ感染の余地が皆無なオンラインが推奨されたのだが、それは参加者がたがいに完璧な他者としてしか振る舞えないということでもある。

 だが、完璧な他者とのあいだに、果たして踏み込んだ対話や意見交換は成立するのだろうか。リモート会議を経験するたびに深まる違和感は、装置としての不具合などよりも、身体的に「分断」された他者であるにもかかわらず、身を重ねることなくしては不可能なはずの「親身」さを求められる原理的な違和感に由来しているのではないだろうか。(椹木野衣)

=(10月7日付西日本新聞朝刊に掲載)=

 

椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。

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