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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 15

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藤浩志
2017/10/24
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完成させない

 千葉県我孫子市・手賀沼の横の150坪ほどの空き地で、何か作品を展示してほしいと誘われたのは、僕が鴨川でこいのぼりを展示し事件になったのを知っている友人の紹介だった。手賀沼の近くのパーマ屋さんだった所でギャラリーと制作スタジオを運営している東京芸大出身の彫刻家夫妻に頼まれて、夏休みの間その空き地で何かやることになった。
 現場に行っても何をやっていいのやらさっぱりわからない。その空き地は閑静な住宅地の奥にあり、沼沿いにあるとはいえ、沼とその空き地の間には風景を遮断する葦だとか雑草だとかが茂っていて、蚊が多いだけのなんの魅力もない空き地だった。
 それまでバイトで貯(た)めたお金で一台3000円の中古のブラウン管タイプのテレビモニターを10台購入し、モニターの放つ光とチューニングで調整されたノイズ音でパフォーマンスのようなことをやってみようかと思った。
 「なまずの群像建設未定地―この建造物の完成はありません。」と書いた看板を制作し、空き地の入り口に立て(注・建設予定地ではない)、奥にやぐらを組んで、なんとなくナマズの群像を作る工事中の雰囲気を整え、3週間の間毎日そこで、「何かを作るふり」を試みた。未完成な状態をそのまま見せつつ、何かを作ろうとする態度だけを見せる手法がいいのではないかと思った。実際何を作っていたのかというと、ナマズの群像ではない。解体され土に埋められたモニターから放たれる光と、空き地のあちこちに仕掛けられた数十個のスピーカーから発するノイズ音をチューニングし、非日常の空間を作り出すパフォーマンスを行い続けた。
 実はそれは同じ地域の数カ所で行っているアートプロジェクトの出品作品の一つだったが、僕は出品作品であるということと、僕自身が美術大学の学生であるということを頑(かたく)なに隠し、完成しないものを作り、ある環境をチューニングしてゆくパフォーマンスをやり続けていた。(美術家。挿絵も筆者)=7月20日西日本新聞朝刊に掲載=

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