江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
藤浩志 2017/11/09 |
かえるくんのおてがみ
アーノルド・ローベルという作家の絵本「ふたりはともだち」の中に、小学校の教科書に載るほど有名なお話「おてがみ」がある。その登場人物のがまくんとかえるくんの関係がとてもいい。大学院修了直後の春。初めてギャラをもらった個展で仕掛けたのがその話を基にした紙芝居屋だった。毎日1日3回、定時に上演した。
紙芝居の作画は友人のちゅんくん。なぐりがきだが面白く、センスがいい。僕はこの物語の一字一句を心に刻もうと、客がいようがいまいが、最大限の大声で空間にぶつけた。実はこの時、この物語の意味についてあまり理解していなかった。しかし、僕の中にこの話が次第に染み込み、その後の活動の方向性を大きく変える。内容はこんな感じ。
がまくんはあるとき自分の《違和感に向き合い》、その正体を言葉にする。「僕は一度も手紙をもらったことがない。手紙が来る時間になるととても憂鬱(ゆううつ)な気持ちになる」。これが一つ目の表現。
そこから二つ目の表現が発生する。かえるくんは家に戻り、がまくん宛てに単純な内容の手紙を書いて知り合いのかたつむりに届けるように頼む。《いい関係をつくる為に》てがみを書くという表現行為も意味深いが、かたつむりに渡すというところが重要となる。それがさらに三つ目の表現を生む。
かえるくんはがまくんの家に戻り、手紙を書いたことを告げ、ふたりで手紙が来るのを待つ。「ふたりはとても幸せな気持ちで玄関に座っていました」とある。手紙を待つ《幸せな時間。期待の時間。希望の時間》をふたりは作ったことになる。《絶望的だった時間の質を期待の時間》に変えるふたりのかえる。そこがとても重要なのだ。
かたつむりに渡したことで3日後に手紙が届く。期待の時間が長く持続する超絶な技。つまり、つくるべきは物ではないということ。関係であり、時間の質だということ。これをちゃんと言葉にできたのは実は紙芝居をおこなってから10年ぐらいしてからのことだった。(美術家。挿絵も筆者)=7月31日西日本新聞朝刊に掲載=
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