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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 35

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藤浩志
2017/12/09
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家を彫刻する

東京で地上げ屋に就職する。会社では不動産に関するいろいろな勉強をさせてもらう。美術大学出身の僕にとっては周りの人がまったく違う価値観を持っていて、仕事の全てが刺激的で新鮮だった。その一方で会社が開発のために買い取っていた取り壊す前の古い家に暮らし、夜や休日にはチェーンソーで家の中の彫刻をはじめた。木の塊や石の塊と対話しながら彫るように家そのものと向き合い、押し入れの奥の隣の部屋との壁に穴をあけ、2階の和室の畳を外し、床に穴を開けて1階をつなげ、そこに妙な構築物を作って行き来できるようにし、調子に乗って夜な夜な作業に没頭した。しかし、押し入れの奥に以前暮らしていた人のシャツが出てきたり、壁の落書きに出会ったりするうち、何か覗(のぞ)いてはいけないところを傷つけているような後ろめたい気持ちにもなったのも事実だ。
 あるとき上司に呼ばれ、廃虚の暮らしはどうだと聞かれ、言葉に詰まった。彼女は僕のやろうとしていることを心苦しく思っていたらしい。その家に暮らしていた人の気持ちを考えると、建物を傷つけるような行為は心地いいわけがない。たとえそれが取り壊されることが決まっていたとしても、建物そのもの、あるいは住んできた方の記憶に対して敬意を持って接することが大切なのではないかと諭される。
 入社して数カ月が経(た)ち、会社の仕事が忙しくなったというのもある。夜中に帰宅して、古い家の痕跡を通してその建物の記憶と向き合うようになり、無理な作業ができなくなり、結局、取り壊された家の柱から一匹のやせ犬を彫り出すという作業だけが残った。パプアニューギニアでヤセ犬に出会った時、その感動を自分の記憶に刻み込むために、101匹のヤセ犬を作りたいと思ったことを思い出した。東京の再開発で取り壊しになる一軒の家から1本の柱をもらって、1匹のヤセ犬を彫る。一軒の家の体験や記憶、そんなものを妄想しながら痩せこけた犬を彫る。そんなことを考えて、文京区白山あたりの木造建築5軒から5匹のヤセ犬が誕生する。(美術家。挿絵も筆者)=8月17日西日本新聞朝刊に掲載=

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