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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 37

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藤浩志
2017/12/16
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お米の砂漠の風景​

  水戸芸術館というアートセンターが出来たのが1990年。それまでの近代美術館は汚れの目立たない色のクロス貼りの壁で額縁作品を天井から武骨なワイヤで吊(つ)るしていたし、汚れた床から作品を分離するために台座を使うことを前提としていたが、水戸芸術館は作品を美しく見せるために展示ごとに真っ白に塗り替えられる壁を持ち、作品を直接ビス止めできたり、壁に描いたり、展示ごとに壁を作ったりと、床に直接作品を設置することを前提とした現代美術の本格的な空間だったので美術関係者の期待が高まっていた。
 その開館直後ぐらいにそこの若手学芸員だった森司さんから電話があり、箱の展覧会を行うのだけど、出品してほしいとのこと。箱の中に一つの世界観をつくり作品化する手法が流行(はや)った時期がある。平面の中に収められた立体というべきか、立体によって構成された平面とでもいうべきか、その中間のようなもの。そんな作品を集めて展覧会を企画したいのだとか。しかし、僕はそんな作品を作ったことがなかった。彼が言うには一部屋を箱に見立てて、そこで展示してほしいとのこと。水戸芸術館展示室の真ん中の9・5メートル四方の部屋。高さが15メートルぐらいあり、ピラミッド状の光の入る天井がある。そこを箱に見立てて自由に使えるらしい。
 実はこの時、買ったばかりの1トンのお米をこの白い空間全体に敷き詰めてお米の砂漠の風景を作った。正確にはこの展示がきっかけとなって1カ月の給料分のお米を購入したのだ。しかも、茨城県の水戸市の農協を通して購入したので、美術館でお米を展示すると聞いた担当者の心遣いで値段よりはるかに良いお米が提供されたので戸惑った。
 床を厚手の紙で養生し、そこにアシスタントをしてくれた自衛隊特殊部隊の男の子が当時の対イラクの国連軍の介入に刺激を受けて、ミサイルの絵を描いていたが、それを覆い隠すように真っ白の一トンのお米を敷き詰めて、世界の食料問題、飽食の時代と言われる日本の状態などへのさまざまな違和感に向き合おうとした。(美術家。挿絵も筆者)=8月21日西日本新聞朝刊に掲載=

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