江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
藤浩志 2017/12/19 |
縁の連鎖が活動を救う
米を踏ませるとは何事か! 食料を大事にしろ! 水戸芸術館の来場者からの苦情が途絶えない。100平米ほどの部屋に1カ月分の給料の全てを使って購入した1トンのお米が敷き詰められ、その上を歩き作品空間へと入る。床の白い粒がお米だと気づいた観客は動けなくなったり、しゃがみこんだり、泣きだしたり。それを美術館のスタッフが対応する。展示の前に学芸員との協議でその状況は予測されていて、状況によっては撤去もありだと覚悟していた。
部屋の中央には421個のテラピアの缶詰がピラミッド状に積み上げられ、メタセコイアの模型が48本、そして湖の形に敷き詰められた塩も展示されている。それは当時勤めていた会社が行っていたアフリカでの養殖や植林、そして海水湖を作る計画等の模型のようなもので、壁に解説が落書きのように描かれている。飽食と言われる日本の状況と飢餓で苦しむアフリカの現実。その問題に触れようと懸命だった。
ある日、お米を提供した水戸の農協職員が他の農協団体を連れて来館。この展示のお米の扱いに対して怒り、この展示は中止すべきだということになる。最終的に農協のトップの方が現場を確認した上で正式に中止が決まると連絡が来た。しかし状況が逆転。その方が来館して会場に入った途端に、「素晴らしい! これはいけばなだ!」となったのだ。その方がいけばなを行っていて、当時草月流の現代いけばなで床全体に種を敷き詰めるなどの表現が話題になっていたのだとか。その表現に実は心当たりがあった。
水戸の展示の5年ぐらい前、多摩美術大学のエントランスに土を敷き詰めて、その上に芝生を植えて毎日水やりをしていた。その展示を見に来た大学生が草月流のいけばなを学んでいるとかで、「藤さん、これはいけばなですよ」と話しかけて来たのだ。その後彼は画廊空間に泥を敷き詰め、種を植える表現を始めた。いろいろな縁が連鎖して自分自身の活動に戻ってくるとは。連鎖は予期せぬ所で起こっているんだなぁ。(美術家。挿絵も筆者)=8月22日西日本新聞朝刊に掲載=
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