アルチンボルドが野菜で描いた皇帝
神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展
2017/11/03(金) 〜 2017/12/24(日)
09:30 〜 17:30
福岡市博物館
アルトネ編集部 2017/09/28 |
福岡市博物館で開催される「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」。
本展の企画を担当したBunkamura ザ・ミュージアムより学芸員の三谷知子氏に、本展の見どころについて語ってもらった。(編集部)
ハプスブルク家稀代の収集家として知られる、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世。ウィーンから宮廷を移し、その後半生を過ごしたプラハには、芸術だけでなく、珍奇なもの、摩訶不思議なものが芸術家や科学者たちによって皇帝に捧げられ、壮大なプライベートミュージアムがプラハ城に作り上げられたといいます。ルドルフ2世のコレクションは、同時代の数々のコレクションの中でも傑出したものとしてその偉業が伝えられています。
しかし残念なことに、ルドルフ2世のコレクションは歴史の流れの中で解体されてウィーンやスウェーデンなどに渡り、今日、プラハにその姿を訪ねても当時の面影を見ることはできません。ルドルフ2世が希求した世界とはいったいどのようなものだったのでしょうか。そして当時のヨーロッパで流行し、彼も夢中になって作り上げた「驚異の部屋」とは。本展覧会は、プラハやウィーンにのこされた皇帝の小さな夢の断片を手掛かりにその世界を探る野心的な試みです。
政治にはあまり関心を示さず、引きこもりがちだったというルドルフ2世が愛したプラハ。「魔法の都」と呼ばれるマジカルな魅力をたたえたこの古都は、今も世界各地から優れた人物たちが集結したという当時の宮廷を想像するのに十分魅惑的な雰囲気をたたえています。
特に皇帝が住まい、壮大なコレクションを作り上げたというプラハ城は、リノベーションが施され、コレクションの多くは散逸してしまっていますが、驚異の部屋があったという回廊は今も敷地内にあり、そうとは知らないであろう多くの観光客がその前を行き来しています。プラハ城を通り抜けると、かつて錬金術師たちが集っていたという、小さな家々が連なる「黄金の小道」へと出ることができ、その先には赤茶色の屋根が並ぶ昔ながらのプラハの絶景が眼下に現れます。望遠鏡の発明によって宇宙へのまなざしが飛躍的に広がり、まさに天動説から地動説へと時代が変わろうとしていた頃、ルドルフお抱えの天文学者として膨大な観測データを残した天文学者ティコ・ブラーエや、その後を引継ぎ、新たな理論を構築したヨハネス・ケプラーも、不思議な魅力に満ちたこの都に住まい、研究に没頭しました。
プラハを代表する美術コレクションを有する3館、プラハ国立美術館、プラハ城、ストラホフ修道院にご協力をいただいて開催される本展は、ルドルフ旧蔵の作品を含む、ルドルフが愛好した画家の作品を中心にご出品いただき、その芸術的嗜好を探ります。また、皇帝の異色の肖像画、ジュゼッペ・アルチンボルドによる《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》が本展のためにスウェーデンのスコークロステル城より再来日するほか、ウィーンを含むヨーロッパ各地からもご出品いただき、版画作品を含む絵画約80点が展示されます。
魅惑的な動物画を多数描いたルーラント・サーフェリーや、怪しげな雰囲気をたたえた優雅な女性像を生み出したバルトロメウス・スプランヘル、写本に繊細で美しい細密画を描いたヨーリス・フーフナーヘルなど、ルドルフ2世に仕え、あるいはその宮廷に出入りしていた、日本ではあまり知られていない個性あふれる画家たちの独特の魅力をも発見していただける貴重な機会ともなるでしょう。
数々の画家を支援した芸術の庇護者であっただけでなく、動物や植物、鉱物といった博物も収集し、当時の発明品や、最先端の科学であった天文学や占星術、錬金術にまで関心を向けたルドルフ2世。本展はその世界観を探るべく、絵画作品に加え、当時のコレクターズアイテムであった機械仕掛けの時計を含む工芸品や天文道具20数点、天文学や錬金術に関する貴重な資料など120点余りの作品で構成され、イッカクの牙や鉱物などのナトゥラリアと呼ばれる自然物も併せてご紹介します。
コレクションの収集や驚異の部屋の構築を通して、皇帝はどのように世界を見つめていたのでしょうか。天文学的にも大きな変化の時期にあった16世紀末から17世紀初頭という時代に思いを馳せながら、魔法の都プラハで華開いた芸術を紐解き、異色の皇帝ルドルフ2世の好奇心を探る旅に出かけてみませんか。
Bunkamura ザ・ミュージアム 学芸員 三谷知子
2008年より株式会社東急文化村に入社。Bunkamura ザ・ミュージアムの学芸業務に携わり、「キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展」(2014-2015、2017年)や、「西洋更紗 トワル・ド・ジュイ展」(2016年)など、Bunkamuraの自主企画展を主に手掛ける。
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