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結局、ただのテーブルと椅子なのです…。「クリクラボ―移動する教室」[YCAM]【コラム】

2021/12/22 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 山口情報芸術センター[YCAM]で開催中の「クリクラボ―移動する教室」(~2022年2月27日(日)まで)。本展の企画担当者、キュレーターのレオナルド・バルトロメウス氏に展覧会についてご寄稿いただきました。

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撮影:谷康弘
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

 2019年に山口情報芸術センター[YCAM]で働き始めてから、私は同僚と「来館者がYCAMと対話できるようなプラットフォームを作る可能性を考えてみよう」という話をしました。この会話が「オルタナティブ・エデュケーション」という、地域コミュニティや市民のための学びの場としてのアートセンターの役割を再考するプロジェクトの誕生につながりました。

 その第一歩として、インドネシアのジャカルタからアーティスト・コレクティブであるセラム(Serrum)を山口県に招聘し、彼らのアイデアを実現することにしました。2006年に活動を始めたセラムは、結成から15年、「アートと教育」という概念で作品を展開してきました。手法はその時々で異なりますが、私は彼らのプロジェクトをいくつか持ってきて、知識を交換するためのプラットフォームを作りたいと考えたのです。

 しかし、新型コロナウイルス感染症の危機が高まったため、セラムを山口県に呼ぼうというアイデアはすぐに中止となりました。そこからは、彼らを物理的に呼ぶのではなく、どうやってプロジェクトを進めるかという方法を模索する方針に切り替えました。 

 YCAMの教育普及を担当するスタッフや山口市在住のアーティスト、鈴木啓二朗氏の協力により、問題は少しずつ解決していきました。これは何というか、まるでセラム山口支部メンバーと一緒に働いているような感じでした。約半年間、ひたすらオンラインミーティングを重ね、ジョークを交えながらブレインストーミングをし、多くの文章を通訳・翻訳してきました。そして10月末、ようやくプロジェクトを成功させることが出来たのです。

 いわゆる展覧会「クリクラボ—移動する教室」は2022年2月27日まで開催されます。本展は、知識を交換する方法やツールキットの集大成です。中央のインスタレーションは、緩やかに4つのゾーンに区分されています。 

 ひとつめの作品「知識のマーケット」は、来場者同士が様々な知識を交換するためのイベント&ツールです。「すべての人は先生であり、すべての人は生徒である」という考えが基本となっており、地元の方を校長として迎えるユニークな公開イベントもあります。

1回目の「知識のマーケット」で校長役を務めた山口在住のラッパーすみまる
撮影:谷康弘
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
「知識のマーケット」の様子
撮影:谷康弘
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

 次に、展覧会と同名の作品「クリクラボ」は、さまざまな分野の専門家を招き、複数のテーマについて議論するという一連のディスカッションの場です。展示エリアでは、来場者はアーカイブの記録を楽しむことができます。今回のテーマは、「日本の教育システム」「地域の知恵」「アートとまち」の3つです。

「クリクラボ」の様子
撮影:ヨシガカズマ
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
「クリクラボ」の様子
撮影:ヨシガカズマ
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

 「理想の学校」は、地元の高校生や大学生を中心に、「校舎のデザイン」「校則」「校風」という3要素から「理想の学習環境」について考えるという一連のワークショップです。展示スペースでは、来場者はワークショップのアーカイブを見ることができます。

「理想の学校」の様子
撮影:塩見浩介
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
ワークショップによって完成した「理想の学校」の模型
撮影:ヨシガカズマ
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

 「セラム・キッチン」は、来場者が体験できるあらゆることのアーカイブセンターであり、来場者が展覧会を楽しんだ後にその体験を「調理するための場所」として機能します。

「セラム・キッチン」の様子
撮影:ヨシガカズマ
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

 とはいえ、インスタレーションを除けば、この展覧会の核となるのは「プレイブック」と呼ばれる手作りの本です。この40ページの本は、教育に対する私たちの認識に疑問を投げかけると共に、セラムが展覧会で展示したツールを共有するためのタスク、情報、ゲームなどを掲載しています。このシンプルな本は、セラムが「どうやって来場者と会話し、YCAMにあるホワイエというスペースで展示するアイデアのベースを理解してもらうか」について多くの議論を重ねた結果、誕生したものです。 

撮影:谷康弘
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

 この展覧会では、物を鑑賞するのではなく、来場者が楽しみながら自分の考えを振り返り、他人との会話や知識を共有する機会を作るプラットフォームを提供しています。従って、この展覧会のインスタレーションは、YCAMで楽しいひと時を過ごしたい方に使われるのを待っている、ただのテーブルと椅子なのです。

(本展企画担当者/レオナルド・バルトロメウス(キュレーター))

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