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【コラム】「北斎」広めたゴンクール

2022/06/06 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 

冨嶽三十六景 凱風快晴 葛飾北斎 江戸時代・天保元~2年(1830~31)頃 大阪・和泉市久保惣記念美術館

 浮世絵の国際的評価は高い。日本文化全体の底上げに寄与していると思われ、その恩恵は計り知れない。発端は19世紀末のパリにあった。版画家ブラックモンは日本からの輸入陶器の梱包材に葛飾北斎の描画集「北斎漫画」を発見。画力に驚き、印象派画家らに知らせた。

 当時のパリの高名な文筆家エドモン・ド・ゴンクールは日本美術に尊崇の念を寄せ、世界に先駆けて浮世絵の研究書を著した。それが「歌麿」と「北斎」である。この2冊が欧米の日本理解に大きく貢献した。「ゲイシャ、フジヤマ」に代表される日本の美のイメージを決したとみても不自然ではない。

 浮世絵研究は日本より海外の方が進んでいると耳にしていたが、この重要文献は日本で100年以上にわたりほとんど無視されてきたらしい。日本語版の出版は「歌麿」が2005年、「北斎」が19年と、ごく最近だ。

 日本の浮世絵は欧州美術に衝撃を与えたが、左右非対称の構図は特に注目された。北斎の代表作「冨嶽三十六景 凱風快晴」も山が右に寄る。

 東洋の山水画の遠祖には「書画一致」の美意識があり、しばしば詩文などを記した「賛」が添えられた。絵の中心をずらして余白を設けるのは、この伝統を踏まえた感覚だろう。つまり「凱風快晴」の構図は東アジア圏共通のセンスとも言える。

 欧州では北斎が知られる100年以上前から中国趣味「シノワズリ」が流行した。遅れて届いた日本美術はこの変種と片付けられそうだが、北斎の洗練された表現は中国美術と一線を画するものと受け取られた。

 ゴンクールは北斎を「自国の絵画をペルシャや中国の影響から奪い返し、(中略)刷新し、真に日本的なものにした画家」(隠岐由紀子訳「北斎」、平凡社)と評した。このペルシャとはシルクロードを通じた白鳳・天平美術への影響を指すのだろう。極東の小国の美術に対する正確な理解に驚く。その上で日本と中国を区別し、北斎を称賛する。日本は自国の宝を梱包材に使っていたのだから、彼の慧眼に感謝するべきだろう。

 ゴンクールが「北斎」を刊行したのは74歳の生涯を閉じるわずか5カ月前だった。邦訳を手がけた隠岐氏は後書きに「天は我らが北斎を世界の美術史上に登場せしめるために、この文筆家を生かさしめてくれた」と記した。私も同じ感慨を抱く。(大串 誠寿 写真デザイン部編集委員)

=(5月31日付西日本新聞朝刊に掲載)=

 

特別展「北斎」は、九州国立博物館で6月12日(日)まで開催中です。

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