江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2022/12/08 |
近年、「分断」や「断絶」といった言葉が飛び交う。それが新型コロナウイルス禍で一層可視化された。美術家による福岡アジア美術館(福岡市)のレジデンス制作の成果展「境界を縁どる―石、呼吸、埋立地」は、その言葉を一度立ち止まって考える機会になる。
新型コロナの影響で、同館のレジデンス企画は3年ぶり。アジア在住者対象だった募集を、海外、日本、福岡に拡大して実施した。本年度第2期の成果発表となる本展は9月中旬から福岡市内に滞在した大阪、北九州市、台湾の3人がインスタレーション作品を出品し、福岡市が旧舞鶴中校舎に整備した「アーティストカフェ福岡」と同館、銭湯「本庄湯」(同市中央区今泉)で展示している。
大阪の大西康明(43)の「境の石 室見川」は、室見川の河原の石をかたどりした銅はく約2千個を巡らせたインスタレーション。ワークショップなどに参加した市民と、川にまつわる思い出を語り合いながら石をかたどりした。会場には、星くずが広がる銀河のように、空洞の銅はくがあちこちに散らばってつるされ、そのさまざまな大きさ、形状からは、かたどられた石が川に流される中で削り取られてきた時間の流れを想像できる。人々の断片的な記憶と時間の集合体がこの人為的に再構成された「川」に流れているかのようだ。
北九州市のソー・ソウエン(27)の「Bellybutton and Breathing―お臍(へそ)と呼吸」は、暗い空間の床にランダムにモニターを置いた作品。モニターには、腹式呼吸する人たちの臍が映し出され、その呼吸音とともに繰り返し流れ続けている。
人間誰しもが母と臍の緒が切れた瞬間から、独立した個人として自分のリズムで呼吸をして生き始める。いくつもの「臍」に囲まれたこの空間で一緒に呼吸をしているとそのリズムが分からなくなった。「きちんと呼吸しなければ」と意識させるほど息苦しさも感じさせ、人種や性別、肩書など属性が求められがちな現代社会への疑問やアイデンティティーの揺らぎを浮き彫りにする。
台湾のゴン・ジエション(耿傑生、33)=台湾=の「水循環 ウォーターサイクル」は、福岡市内各地にある埋め立て地の水の行方を追う。作家自ら浴槽を背負って地域の人に水やカッパにまつわる逸話を尋ねながら、工事で水流が変化した場所や、人工的にできた川や池を巡り、ひしゃくで水をくみ取っていく。最終地点の百道浜では浴槽に漬かる。その一連の様子を映像作品にした。
さらに、軟らかい管を鑑賞者が動かすことで中の水が左右に行き来する立体作品なども加えて空間を構成し、海水も都市の水も混ざり合って循環する現代都市の摂理を表現した。
昨今の社会は、物事に白黒付けて合理的に線引きする傾向が強まっている。だが、現実社会はもっと不確実で、曖昧で答えが分かりにくい事象があふれる。3人が福岡の地に滞在しながら産み落とした作品群は、見えにくい境界をあえて縁どろうとすることで、カオスな現実をぼんやりと浮き彫りにしていた。
(丸田みずほ)
=(12月8日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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