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第17回 福岡アジア美術館 アーティスト・イン・レジデンスの成果展「境界を縁どる−石、呼吸、埋立地」/福岡の滞在でアーティストが制作したモノ、感じたコト (その3)ゴン・ジエションさん

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木下貴子
2022/12/28
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 福岡アジア美術館(アジ美)のアーティスト・イン・レジデンス事業、Ⅱ期アーティスト3人の成果展が行われました。3回にわたって各アーティストたちの展示の様子を、アーティストのコメントを交えながら紹介してく特集記事。最終回は、ゴン・ジエションさん(台湾)の展示をレポートします。

※その1、大西康明さんの記事はこちら
※その2、ソー・ソウエンさんの記事はこちら

■ゴン・ジエション/耿傑生《水循環 ウォーターサイクル》2022年
会場:Artist Cafe Fukuoka、福岡アジア美術館、本庄湯

 ゴンさんは福岡の中心部が埋立地で形成されていることに興味をもち、レジデンスでは埋立地に関するリサーチを行い、制作を進めました。福岡市博物館の市史編さん室のスタッフに話を聞いたり、埋立地に関する書籍や資料を調べたり、また、実際に埋め立てられた場所を自転車でぐるっと回ったり、百道浜の海岸沿いを歩いたりしたといいます。「百道の海岸は自然にあふれている一方で、人工的な感じもしました」と話します。

成果展のオープニングのトークで、作品について説明するゴンさん

 「まず埋立地というスケールの大きなものをどう表現するかを考えました。どう自分と関係させるのかと悩んでいたときに、以前、日本に留学していたときにお風呂に浸かった経験を思い出しました(台湾では入浴の習慣はない)。浴槽に浸かると自分の体積の分だけ、お湯があふれる。この様子は埋立地が造られるときの状況とリンクするのではと考えました」。海岸を歩くうちにまだ素材が足りないと感じ、埋立地である街の方も歩き回ったそうです。

 リサーチを進めるうちにゴンさんには「土地が埋め立てられた後の水は、どこに行くのか?」という疑問が生まれました。そしてこの答えを探すように、いろいろな水場を探し当てていったと言います。今回制作した映像作品では、浴槽を背負ったゴンさんがアジ美を出発し、龍宮寺、大濠公園、唐人町の「せせらぎがっぱ」、菰川(こもがわ)跡などを経由して百道浜まで行く様子が映し出されていました。
 

ゴンさんの映像作品より

 水に関連する場所を訪れ、柄杓で浴槽に水を汲んでいき、最終地の百道浜では海水と混ぜて入浴を行ったゴンさん。「様々な場所で汲んだ水と海水が混ざり合い、私が入浴を終えた後、海へと水が戻っていく。この行為と、私が抱いた疑問『この水はどこに行くのか』とつなぐことができました」。

 ゴンさんが制作に使っていたArtist Cafe Fukuokaのスタジオでは、この映像ともに今回の水の旅で感じたことや水をテーマにした作品をいくつも制作し、インスタレーションとして展開されました。「私は前々から彫刻をやっているのですが、形のない水をどう表すかとても悩みました。それで水風船を使って水の形や流れを表したり、水の旅で見かけたコンクリートや海辺にあった網などを取り入れたりして表現しました」。水風船はとても薄くて破れやすい素材のものが使われてあり、「スタジオでの展示でよかったです。アジ美で展示してたら災難になっていたかも」と冗談めいて話していましたが、実のところ会期中にいくつか割れた水風船もありました。

小さなゴム片が弾いて、大きな水風船を動かす作品。弱い力で大きなものを動かすことで、両者の関係性を表します

 また、ゴンさんはアジ美にて映像作品と合わせて背負った浴槽を展示しました。
 

アジ美7階ロビーでの展示

 埋立地をリサーチしていくうえで、福岡で伝えられている人魚やカッパの伝説にも強い関心をもったというゴンさん。「違う角度、目線から今回のテーマを感じてほしい」と、銭湯「本庄湯」(中央区今泉)を舞台に、博多区の龍宮寺に伝わる人魚伝説から着想して制作した干し人魚の彫刻、カッパの生態を知る生物学者にインタビューした音声作品を展示しました。

本庄湯の入り口に展示された干し人魚の彫刻。素材には鯖、鶏皮、モツ(ゼンマイ)も使われ、顔は干からびた猿のよう。見るからにグロテスク!

 

脱衣所では、ラジオ番組風のインタビュー音声が流れ、半透明の干し人魚が展示されていました

 本庄湯では水の旅の映像作品は、なんと浴室の壁に投影して上映されました。この作品を見るならば、裸にならざるを終えません。意を決して私も湯船にドボンと浸かり映像作品を見ましたが、いかんせん開店直後の本庄湯のお湯は熱い! 湯船を出たり入ったり、のぼせないよう気をつけながら楽しみました。

ゴンさんの映像作品は、男湯と女湯の間の壁に投影されていました

 
 ゴンさんの作品を通して、私は菰川跡の存在を初めて知り、また、本庄湯も初めて利用してその魅力に気づきました。それは大西さん、ソーさんの作品にも同様に言えることであり、今回レジデンス・アーティストたちの外側からの視点によって、ふだん気に留めていないなかったところから新しい発見ができました。作品を見るものにとって、この経験こそがまさにレジデンスにおける醍醐味だといえるのではないでしょうか。

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