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第17回 福岡アジア美術館 アーティスト・イン・レジデンスの成果展「境界を縁どる−石、呼吸、埋立地」/福岡の滞在でアーティストが制作したモノ、感じたコト (その2)ソー・ソウエンさん

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木下貴子
2022/12/27
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 福岡アジア美術館(アジ美)のアーティスト・イン・レジデンス事業、Ⅱ期アーティスト3人の成果展が行われました。3回にわたって各アーティストたちの展示の様子を、アーティストのコメントを交えながら紹介してく特集記事。第二弾は、ソー・ソウエンさん(北九州)の展示をレポートします。

※その1、大西康明さんの記事はこちら

■ソー・ソウエン《Bellybutton and Breathing −お臍(へそ)と呼吸》2022年
展示会場:Artist Cafe Fukuoka
パフォーマンス会場:福岡アジア美術館

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、世界中の人たちが同じ状況に置かれ、同じように生活が激変させられました。誰もが思いもよらなかったコロナ禍、それぞれに思うこと、感じたことがあったことでしょう。出来事は歴史として記録に残っていきますが、人々が抱いた感情は時間の経過とともにやがて失われていきます。ソーさんは、今この時代において何を表現すべきか、またそれを後世へとどうつないでいくべきかをふまえながら、レジデンスでの滞在制作に挑みました。
 
 ソーさんが手掛けた映像インスタレーション作品《Bellybutton and Breathing −お臍と呼吸》は、Artist Cafe Fukuoka(ACF)内のギャラリーで展示されました。暗がりに置かれた15台のモニターに1人ずつ、お臍まわりをクローズアップして腹式呼吸をする様子が映し出されます。 

《Bellybutton and Breathing −お臍と呼吸》(部分)

 「スー、ハー、スー、ハー」「フー、フー、フー、フー」。一人ひとり音もリズムも異なる呼吸の様子を見聞きするうちに、次第にそれらが人が発するものでないように聞こえてきたり、あるいはふだん無意識にやっている呼吸に意識が向いたり。感情がいろいろと揺さぶられます。

 ソーさんがこの作品の構想をしたのは1年半くらい前のことであり、それにはまさにコロナ禍が深く関係しているといいます。「他人とのつながりが絶たれた生活の中で、『私ってなんだろう』ということをすごく考え直ました。自分の中でいつか作りたいとブラッシュアップしながら構想を温めていたんですが、今回実現することができました」と話します。

 作品のテーマは、タイトルにもあるように「お臍」と「呼吸」です。「お臍はすごくユニークな部位です。胎内にいたときに最後まで母親とつながっていた場所であり、誕生と同時に断ち切られる。それが大した意味ももたず、ずっと残り続けているということにすごく興味をもちました。私という個と世界を隔てている『胃図』のようなものと、僕はお臍をみています」。

成果展のオープニングのトークで、作品について説明するソーさん

 また、「誕生して臍の緒が断ち切られると同時に始まる呼吸は、閉じているお臍とは逆で、人間や生物にとって外界に対して開いていないと生命が存続できません。常に世界を摂取していないと存続できないことの要素として呼吸をこの作品に取り入れました」とソーさん。腹式呼吸を単純にモニターに映し出すことで、一人称(私)が抱える開きと閉じのジレンマのようなものが表せるのではと考え、今回のような構図の作品になったと言います。

モニターは間隔を開けて配置され、観客はその間を自由に歩き回って鑑賞することができました

 映像のモデルは、福岡市民の方を中心に募集しました。当初15人ほどを予定していましたが、最終的に25名ほどが参加しました。「軸はずらさずなるべくプランどおりにと進めてきました。そこに不特定要素として、他人の生きた身体が入ってくる。この自分が操作できない部分を、今回の余白にしようと考えていました。作品自体は、構想どおりに仕上がりました。でも、いろんなお臍があるということにびっくりして、僕もまた新たに考えたことが多くあり、ここからまた違った作品につながっていきそうだと感じています」。

 また会期中の12月10日には、あじびホールにて同作品のパフォーマンスも行われました。

あじびホールで行われたパフォーマンス(撮影:牧園憲二)

 15人のパフォーマーたちが30分間、腹式呼吸を続けるという内容のパフォーマンスです。全員、顔も身体も白い衣装に包まれ、匿名性が生み出されています。その中で腹部だけが露わになっているため、自ずと目はそこに引き付けられます。聞こえてくるのはパフォーマーたちの呼吸の音のみ。映像とは違う、生の肉体から発せられる生々しい息遣い。遠くからでも聞こえてくる呼吸音、逆にそばに立たないと聞こえないような呼吸音。時に皆が一斉に、呼吸の仕方を変えるような瞬間などもありました。

 パフォーマンスの後、10分間の休憩を挟み、20分間のディスカッションが行われました。パフォーマーたちからは「まだやりたい」「途中で倒れそうになり、いったん集中するのをやめた」「観客の姿は見えないのに気配は感じるという、ふだんとは違う感覚が面白かった」といった感想が出ました。また、観客からは「映像はお臍のみだったけど、このパフォーマンスでは肉体が目の前にあって、それがすごく強烈だった」という感想も出ました。

 「僕たちの世代はコロナ禍を経験しています。あのパンデミックは本当に怖かったし、他人の息遣いを聞くことが恐怖になるって、だいぶやばくないですか? こういうことを経験した身として、他人の吐く息に対して嫌悪感をもったり、それでも息を止められなかったというようなことをちゃんと後世に残しておきたくて」と話すソーさん。今回が終わりではなく、パフォーマーの人たちにパフォーマンスの間に何を考えていたのか、他人の呼吸はどう聞こえたのか、自分の呼吸はどういうふうに聞こえたのかといった些細なことも記録に残して、アーカイブブックのような形で表すことも考えているそうです。

■ソー・ソウエン《エグザサイズ》2022年
展示、パフォーマンス会場:福岡アジア美術館

 ソーさんは、アジ美でも展示を行いました。《エグザサイズ》は、ソーさんがレジデンス中にACFはじめいくつかの場所で行った、生卵を自分の体のくぼみに挟んで落とさないよう動いていくパフォーマンスを記録した映像作品です。

アジ美7階ロビーでの展示の様子

 さらにソーさんは成果展の会期中、4日間にわたってこのパフォーマンスを、アジ美の開館から閉館まで休まず続けるということもやり遂げました。

アジ美が開館している時間ずっと、休憩もとらずにパフォーマンスをやり続けたソーさん
割れて落ちた卵

 お臍と呼吸、そして生卵。ソーさんは命の根源ともいえるこれらの要素を通して、私たちにふだん意識しないことを意識させてくれたり、誰しもに関係する生と死というものを喚起させてくれたりました。また休憩もとらずにパフォーマンスをやり続けたソーさんのストイックな姿勢は、言葉なくとも多くのことを物語り、見る人に様々な感情を抱かせてくれたに違いありません。

【インフォメーション】
ソーさんはレジデンスを終えた後、12月17日より北九州市のGALLERY SOAPにて個展「どうしてわたしのては、目は、乳首は2つあるの」を開催しています(2023年1月8日(金)まで)。どうぞ、お見逃しなく!

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