江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
木下貴子 2022/12/26 |
アジアのアーティストが長期にわたって滞在し、制作を行う福岡アジア美術館(アジ美)のアーティスト・イン・レジデンス事業。過去2年はコロナ禍で実施できていませんでしたが、今年度3年ぶりに復活し、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期に分けて総勢8人のアーティストたちを招へいし開催されています。
9月に始まったⅡ期からはアーティストの制作拠点を、あじびから旧舞鶴中学校跡地にオープンしたArtist Cafe Fukuoka(ACF)内のスタジオに移しました。ここでⅡ期アーティストの大西康明さん(大阪)、ソー・ソウエンさん(北九州)、ゴン・ジエションさん(台北)が、9月から12月の3カ月にわたって滞在制作を行い、またその作品を発表する成果展が12月2日から11日までACF、アジ美、さらに市内にある銭湯「本庄湯」を舞台に開かれました。
この特集記事では3回にわたって、成果展で発表された各アーティストたちの展示の様子を、アーティストのコメントを交えながらそれぞれ紹介していきます。第一弾の今回は、大西さんの展示をレポートします。
■大西康明《境の石 室見川》2022年
会場:Artist Cafe Fukuoka、福岡アジア美術館
大西さんのACFでの展示場所は、自身が制作していたスタジオです。大西さんは滞在制作が始まった早い段階から、ここを成果展の展示場所にしたいと考えていたそうです。この場所はもともと保健室で、現在は駐車場になっている校庭側にもドアがあったり、中が見えないように窓はすりガラスになっていたりと、ほかの教室とは異なる構造をしています。「この南側のすりガラスに注がれる光がきれいで印象的でした。9月の中旬は暑いくらいの日々が続いていて、毎朝スタジオに来たら換気のために窓を開けて風を通していました。そうすると全面すりガラスの中、開けた窓枠には車や歩いている人がチラチラと見えて、それが面白く映りました。そして展覧会では、この窓を3カ所開けてそこに向かって伸びる管のようなものを、この場所で作ろうと思い付きました」と大西さんは話します。
成果展では、大きく開けた廊下側の窓から校庭側の窓に向かって3つの管が伸びていくような、大型のインスタレーション作品《境の石 室見川》を完成させました。網のように針金を組んだ構造に、銅箔の石の型が無数に付けられています。
この滞在制作では、川と人との関係にも目を向けながら制作していったという大西さん。序盤のリサーチでは、筑後川や那珂川、室見川といった県内の河川や上流のダムに足を運んだり、図書館で福岡の川にまつわる歴史を調べたり、また福岡市博多区の山王雨水調整池も訪れました。「福岡には一級河川のような大きな川がなく渇水になることがあるけれど水害も起こるなど、いろいろな川にまつわる話を聞きました。展示では川と人との関わりを中心に作品に取り込もうとも考えましたが、最終的にはこの場所や空間を活かして有機的な形態の作品になりました」。
銅箔による石の型は、大西さんが室見川の河原から借りてきた石を型取って制作したものです。石を銅箔で覆い、木槌でコンコン叩いて型を取っていきます。大西さんは日々コツコツと、アジ美のボランティアさんたちやスタジオを訪れた人たち、ワークショップに参加した人たちと一緒に作りました。
「参加してくれたみなさんが作った石の型が作品のどこかに貼り付いている。みんなで作ったみんなの室見川というような作品にもなりました」と大西さん。実はこのように他の人と一緒に作品を制作することは今回が初めてだったそうです。「今まで1人でやっていたことを、僕の手を離れてみんなでやったらどうなるだろうという実験みたいなものでもありました。参加者が増えて制作が進むにつれて、僕が作るものに近づけてほしいといった思いは段々となくなって、最後には多様で充分な数になったことは満足しています」と振り返ります。
「この作品は一つの川のようにも、風の通り道のようにも、血管や体内のようにも見えるけど、特に何の形だとは断定していません。具体的に何かの形を目指したというよりも、表と裏や内と外が部屋の中や廊下から見られて、窓の外の景色も作品の中に取り込みながら、人間と自然の境界にある形を暗示するようなものを作りたいと思いました」。卵の殻のように薄い銅箔による石の型は、時に光を反射させて煌めいたり、時に窓からの風にゆらめいたり。静かに佇む中で、表情を変えていました。
大西さんは、アジ美でも作品を展示しました。ロビーでは室見川の石と銅箔を組み合わせた作品を展示し、図書コーナーでは天井から大きさの異なる半球体を5点吊り下げた作品を手掛けました。
今回、大西さんがたくさんの人たちと一緒に制作した銅箔による石の型は、全部で2,962個。そのうち約2,000個がACFでの作品に、残り約1,000個がアジ美での作品に使われました。トントン、コンコンと根気よく木槌を叩きながら、一緒に世間話や雑談をしたり、川にまつわる話を聞いたり。そのような時間を共にしながら制作を進めていった大西さんの作品。丸みのある石の型一つひとつに、一人ひとりの時間が包み込まれているように思え、目には見えないけれどもその無数の集合体から、関わった人々の思いや共に過ごした時間の痕跡が感じられました。
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