特別展「生誕270年 長沢芦雪―若冲、応挙につづく天才画家―」
2024/02/06(火) 〜 2024/03/31(日)
09:30 〜 17:00
九州国立博物館
2024/03/12 |
江戸時代きってのエンターテイナー、芦雪(ろせつ)が描いた世界は、やっぱりすごい。大胆に筆を振るったかと思えば、約3センチ四方に数百人を描き込む緻密さ。5日に後期展示が始まった九州国立博物館(九博、福岡県太宰府市)の特別展「生誕270年 長沢芦雪」。前期からほぼ全ての作品が入れ替わり、33件の名品がフィナーレを飾る。
(文・川口安子、写真・小川祥平)
芦雪は江戸中期、京都で活躍した天才画家。写生の祖である師の円山応挙(おうきょ)をもしのぐ超絶技巧を持ちながら、その作風は個性的。伊藤若冲(じゃくちゅう)らと並ぶ「奇想の画家」として近年、国内外で人気が高まっている。
芦雪が描く動物は、とっても表情豊か。ふすま絵「群猿図」(兵庫・大乗寺、重要文化財)は、ちょっと偉そうなサルがいたり、食いしん坊がいたり。群れの関係性まで伝わってきそうだ。
真っ黒な牛を真正面から捉えた掛け軸「牛図(うしず)」(鐵齋堂)は、間近で見ると体の凹凸が墨の濃淡で表されているのが分かる。周りを飾る梅の絵は、別の画家が後から描いたもの。牛と梅の組み合わせは、太宰府天満宮が祭る菅原道真公を連想させる。
約11メートルに及ぶ絵巻物「花鳥遊魚図巻」(国・文化庁保管、重要美術品)は、まるで江戸時代のアニメーションだ。朝日が昇ると花が咲き誇り、仔(こ)犬が戯れ、魚が泳いで鳥やチョウが舞う。最後は紅葉の向こうにおぼろ月が浮かぶ。右から左に向かって、朝から夜、春から秋という二つの時間が流れている。犬のモフモフした質感の秘密は、繊細な筆遣い。よく見ると白い線が効果的に入れられている。
横136センチ、縦167センチの掛け軸「蹲(うずくま)る虎図」は、まずその大きさに圧倒された。芦雪は宴席で、即興で早描きしたとみられる。はけを走らせた体毛が連なって虎が出来上がっていく様に、観衆はみんな喜んだことだろう。
後期展示では、芦雪と同じ時代を生きた画家たちの逸品も並ぶ。若冲の「象と鯨図屏風(びょうぶ)」(MIHO MUSEUM)は、黒いクジラと白いゾウの対比が目を引く晩年の大作。実は芦雪にも似た構図の絵があり、その関係性に思いを巡らすのも面白い。
応挙による「藤花図屏風」(根津美術館、重要文化財)は、金箔(ぱく)の上に薄く色を重ねたフジの花が、息をのむほど美しかった。
九博の鷲頭桂(わしずかつら)主任研究員は「前期からさらにパワーアップし、既に来場した方も新たにご覧になる方も満足していただける内容になっています」と語る。
■特別展「生誕270年 長沢芦雪(ろせつ)-若冲(じゃくちゅう)、応挙(おうきょ)につづく天才画家-」 31日まで福岡県太宰府市の九州国立博物館。西日本新聞社など主催、積水ハウス 福岡マンション事業部特別協賛。「奇想の画家」として国内外で高い評価を受ける長沢芦雪(1754~99)の画業をたどる九州初の大回顧展。伊藤若冲、曽我蕭白(しょうはく)、円山応挙ら、芦雪と同時代の画家の名品も特別出陳している。観覧料は一般2000円、高大生1000円、小中生600円。月曜休館。ハローダイヤル=050(5542)8600。
=(3月9日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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