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挂甲の武人 国宝指定50周年記念/九州国立博物館開館20周年記念/放送100年/朝日新聞西部本社発刊90周年記念
特別展「はにわ」
2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
09:30 〜 17:00
九州国立博物館
2025/02/17 |
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熱気は会場の外にまで及んでいた。
九州国立博物館(九博、福岡県太宰府市)で開かれている「はにわ」展。出入り口にあるグッズ販売コーナーは人の波が絶えない。着れば「挂甲(けいこう)の武人」になれるルームウエア、家形はにわ型のポーチ、古代の髪形「みづら」を再現したカチューシャ…。ユニークかつユーモラスなグッズを手にした人は口をそろえる。「かわいい」と。
考えてみると、グッズのモチーフは古墳に埋葬されていた古い焼き物でしかない。1500年も前の土製品に、人はなぜ愛情を感じるのだろうか?
「専門家や研究者が気づかない魅力を、多くの人が感じていると思い知りました」。群馬県地域創生部の深澤敦仁文化財専門官が感慨を込めて言う。
同県が2018年に初開催した人気投票「群馬HANI―1(はにわん)グランプリ」に携わった。県内の自治体が「おらが町」で出土した自慢のはにわをエントリーし、投票でナンバーワンを決める試みだった。投票総数は約6万。結果、1位は「笑う男子」(同県藤岡市出土)、2位は県のマスコットに似たぐんまちゃん埴輪(はにわ)こと「馬形埴輪」(前橋市出土)と「かわいい」「ゆるい」「癒やされる」ものが支持を得た。
「これらのはにわを花束に例えるとカスミソウ。博物館では目立つ所に展示されませんが、必ず人が集まってきます。専門家は『挂甲の武人』など文化財的価値や知名度に勝るものを中心に置きがちなんですけどね」と深澤さん。
九博の「はにわ」展に並ぶのは巨大な円筒はにわから、人や動物を模した象形はにわまでとにかく種類が多い。学術調査→文化財指定→教科書掲載と“王道”を歩むものがあれば、「かわいい」ことで評価されるものもある。バラもカスミソウもお好み次第。どれを選んでも楽しめる間口の広さも魅力の一つではないか。
昨秋、九博の前に東京国立博物館(東博)で開かれた「はにわ」展には所蔵先から計18本のビデオレターが寄せられた。いずれもわがはにわこそ「至宝だ」と訴えた。
磐城高校(福島県いわき市)の史学部員は、校内で保管する重要文化財「天冠をつけた男子」の来歴を紹介した。かみつけの里博物館(群馬県高崎市)の担当者は古代人の衣装で「鵜形埴輪」と「盾持人(たてもちびと)」が唯一無二の存在だと強調した。
分けても浜松市博物館の熱量は特筆される。館の外壁に「祝 全国選抜『鹿形埴輪』」と書いた横断幕を掲げ、ビデオレターで鈴木一有館長は「頑張って」とはにわを激励した。「栄えある全国選抜の展覧会の地域代表。強豪がそろう展示室でも、存在感を示してほしい」と鈴木館長。まるで甲子園初出場が決まった地元校を応援するような盛り上がりだ。
全国津々浦々で出土するはにわ。その土地ならではの特徴を備えたものも数多い。地元出身のはにわが、郷土愛と結びつくのもうなずける。
昨秋は日本中が「はにわ祭り」に浮かれていた。東博の「はにわ」展に加え「ハニワと土偶の近代」(東京国立近代美術館)、「古墳時代ぐんまの国宝埴輪と東博埴輪」(群馬県立歴史博物館)、「王権と首長墓の埴輪」(三重・松阪市文化財センター)などの特別展が同時期に開かれたのだ。
市原歴史博物館(千葉県市原市)で10~12月にあった「旅するはにわ展」もその一つ。同館所蔵のはにわが、80キロ離れた埼玉県の窯で焼かれ運ばれてきた「物語」を基に企画した。
「はにわは一体一体、それぞれに物語があります」と鶴岡英一・同館学芸員は言う。キャラが立ったはにわが登場人物となって、壮大なストーリーを描く。
「はにわ」展を担当した九博の白井克也学芸部長も語る。「そもそもはにわは古墳に立てられた時から、物語を表しています。埋葬者の顕彰、葬送儀礼、神事など、どんなテーマが語られているのか想像力をかきたてられます」
人物や動物などが組み合わさった群像劇「はにわ劇場」。見ればきっと愛情がわくはずだ。 (文・写真 塩田芳久)
九博開館20周年記念の特別展に「大集合」した約120件のはにわたち。多くの人を引きつけてやまないその魅力を、さまざまな角度から見つめた。
▼九州国立博物館開館20周年特別展「はにわ」 5月11日まで。同じ場所で制作されたとみられる「挂甲の武人」の“5兄弟”が勢ぞろいするほか、高さ2.4メートルの巨大な円筒埴輪(はにわ)、馬や鳥、鹿や魚といったバラエティー豊かな動物埴輪などが並ぶ。入場料は一般2千円、高大生1200円、小中生800円。西日本新聞社など主催。問い合わせはハローダイヤル=050(5542)8600。
=(2月15日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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2025/02/08(土) 〜 2025/04/06(日)
福岡市博物館
2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
九州国立博物館
2025/01/25(土) 〜 2025/03/20(木)
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2025/02/27(木) 〜 2025/03/31(月)
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