文化交流展 特別展示
白隠さんと仙厓さん
2018/01/01(月) 〜 2018/02/12(月)
09:30 〜 17:00
九州国立博物館
アルトネ編集部 2018/01/13 |
九州国立博物館で開催されている文化交流展 特別展示「白隠(はくいん)さんと仙厓(せんがい)さん」では、駿河の白隠さんと博多の仙厓さんの代表的な禅画や墨蹟が紹介されています。
街角や電車の中で、大勢の人たちが、ずらりならんで片手でスマートフォン操作――今や日常的に出会う光景ですよね。私は、この原稿を新幹線の中で書いているのですが、途中から乗車された隣席の男性も、ずっとスマートフォンとにらめっこ中です。持ち歩き型コンピュータであるスマートフォンの代名詞=iPhone、その生みの親と言えば、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏。あのジョブズ氏がZEN=禅に傾倒し、その教えを実践していたことを、ご存知でしょうか?
禅とスマートフォン、一見無関係そうに見える両者。詳しく説明する知識は持ち合わせていませんが、スマートフォンの設計思想には、禅の考え方が深く関わっているんだそうです。同じように、野球のイチロー選手や、実業家の稲盛和夫氏をはじめ、禅に魅かれ、その教えを自らの仕事に生かしている世界的な著名人は少なくありません。
一方で禅は、わらべ遊びでも親しまれています。だるまさん、だるまさん、にらめっこしましょ。笑ったら負けよ、あっぷっぷっ!口をしっかりむすび、目を思いっきり見開いて相手と向き合う表情は、だるまさんの顔、人の心を射抜くような顔をまねたものでしょうか。
「だるまさん」こと達磨大師(だるまだいし)によって、およそ1500年前、インドから中国へ伝えられたとされる禅宗は、その後、唐時代の中国において臨済禅師(りんざいぜんじ)によって広がり、我が国には鎌倉時代にもたらされました。以降、禅は武家のみならず、天皇家や公家にまで広く支持され、日本の社会と文化に大きな影響を与えていくことになります。
江戸時代に入って重要なのは、臨済禅の流れをくむ黄檗(おうばく)宗が新たに伝わるとともに、白隠さん〔白隠慧鶴(はくいんえかく 1686〜1768)〕や仙厓(せんがい)さん〔僊厓義梵(せんがいぎぼん 1750〜1837)〕をはじめとする名禅僧らによって、民衆への普及が進んだことです。冒頭に記しましたように、今日では禅の教えは欧米にまで広がって多くの人々の心の支えとなり、ZENが生活スタイルの中に取り入れられるほどになりました。
禅の教えを民衆に伝えるために禅僧が用いたのが、禅画と墨蹟(ぼくせき)でした。禅画とは、禅の精神、たとえば悟りの境地といった本来「心」の領域に属するものを、絵筆に託して表した絵画作品のことで、姿かたちのない観念の世界を目に見えるものにするため、表現手段としては比喩的、象徴的なものになります。言葉にし難い大切なことを、ビジュアルの力を借りて伝えようとしているのです。
そうした禅画を膨大に描いた禅僧の代表として知られるのが、駿河(静岡)の白隠さんと博多(福岡)の仙厓さんにほかなりません。活躍した時代と場所は異なりますが、二人は江戸時代の禅宗界に清涼な新風を巻き起こしました。江戸前期の白隠さんは、今日の臨済宗の法脈がすべてそのもとに連なることから、「日本臨済宗中興の祖」と呼ばれています。江戸後期の仙厓さんは、「扶桑最初禅窟(ふそうさいしょのぜんくつ)」(日本で最初の禅寺)として鎌倉時代に栄西禅師が開いた博多・聖福寺の復興をみごとに成し遂げ、「博多禅」を守りました。
九州国立博物館の特別展示「白隠さんと仙厓さん」では、白隠さんの250年遠諱(おんき)を記念し、九州に遺る作品を中心として、白隠さんと仙厓さんの代表的な禅画や墨蹟をご覧いただきます。出品作は、力作・秀作ばかりで粒ぞろい。筆と墨を用いてそれぞれが描き表そうとした、禅のこころとかたちをご紹介します。未来のジョブズになるかもしれない若い皆さん、まさにご活躍中の皆さん、この展覧会を「禅」と出会うきっかけにされては、いかがでしょうか。
山下 善也(やました・よしや)
本展担当。静岡県立美術館、京都国立博物館、東京国立博物館を経て、平成29年4月より九州国立博物館主任研究員。専門は日本近世絵画史。京都国立博物館では「絵画の冒険者・暁斎 Kyosai」展(2008年)・特別展覧会「狩野山楽・山雪」(2013年)などを主担当、東京国立博物館では「禅-心をかたちに-」展(2016年)などを担当した。
<展覧会情報>
特別展示「白隠さんと仙厓さん」
九州国立博物館 文化交流展示第11室
2018年2月12日(月・振替休日)まで
休館日、開館時間等、詳細は同展HP参照
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