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映画「ザ・スクエア 思いやりの聖域」 キュレーター川浪千鶴の目

2018/05/11 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた「ザ・スクエア 思いやりの聖域」が福岡市のKBCシネマなどで現在公開中だ。現代美術館のキュレーター(学芸員)を主人公に、現代社会が抱える矛盾をシニカルにあぶり出す問題作だ。美術館を舞台に、ある展示作が思わぬ反響を生み、大騒動へと発展していく今作を現場の学芸員はどう見るのか。福岡県立美術館学芸課長を経て、今春まで高知県立美術館企画監兼学芸課長を務めた川浪千鶴さんに寄稿してもらった。

© 2017 Plattform Produktion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

 必死に助けを求める声や怒声、罵声に気づいても、視線をあらぬ方向に向け状況を遮断してやり過ごし、その他大勢に紛れる人々。そこに自分の姿を重ねることは至極簡単で、本作を見る人は、当事者のような居心地の悪さをたちまち味わうことになる。

 「ザ・スクエア 思いやりの聖域」は、社会派映画で知られるリューベン・オストルンド監督による、毒のある笑いに充ちた風刺劇。監督は、人間の行動原理に対する社会的アプローチとして、権威ある現代美術館のキュレーターを主人公に、わかる人にしかわからないと言われる現代アートの業界を皮肉たっぷりに捌いて見せた。クールな場面構成と高度なカメラワークによって、見る人は条件反射的な感情に止まることなく、巧みに深みへと思考を促されていく。現代社会とアートの未来を考える上で、確かに今見るべき一本だ。

 セレブが集うパーティーや寄付金と結びついたヨーロッパの美術館の華やかさ、男性のチーフキュレーターがもつ権力や社会的な地位、そもそも美術館人を主人公にした商業映画が制作され、カンヌ国際映画祭で受賞することなども含めて、本作に見る美術館状況はヨーロッパと日本ではあまりにもかけ離れている。それは全く別物といえるほどなのだが、美術館の役割が大きく変化している現状において、自己検閲と表現の自由、危機管理、コミュニケーションの限界などの今日的な課題だけは、皮肉にも変わらない。

 資金確保や広報に奔走、展覧会の趣旨説明や作品メンテナンスに腐心し、SNSでの炎上やマスコミに振り回され、個人と組織の責任バランスに悩む等々。私も日本の公立美術館学芸員を長年勤めてきたので、本作がたたみかけてくる「美術館あるある」のエピソードにはいちいち反応してしまう。社会、職場、家庭それぞれでスマートに責任を果たし信頼されてきた主人公の意外な偏見と価値観、そして利己的な選択。そこから生じた公私にまたがるトラブルの連鎖とジレンマの結果、主人公は美術館を辞める道を選ぶのだが、もしも別の選択をしたらどんな可能性につながったのか、もしも自分だったら、と本作を見終わった今も考えさせられている。

 「ザ・スクエア」と名付けられた「信頼と思いやりの聖域」を制作したアーティストは、映画の中では名前は紹介されてもなぜか姿を見せない。理事会メンバーや記者に対して説得や弁明を行うキュレーター自身が、まるでアーティストのように振る舞っていることも意味深だ。

 本作公開前、監督は映画に登場する「ザ・スクエア」をリアルな体験型のアート作品として、実験的にスウェーデン国内の小都市で発表している。広場の敷石を2メートルほどの矩形に仕切った上チューブライトでそれをなぞり、「この中では誰もが平等の権利と義務を持っています/この中にいる人が困っていたら それが誰であれ あなたはその人の手助けをしなくてはなりません」というメッセージボードを足元に置くだけの「ザ・スクエア」は、社会問題の解決にささやかながらも実際に貢献し、移民増加や貧困問題に悩む「福祉大国」スウェーデンで今も増えているという。

 虚構と現実にまたがる「ザ・スクエア」は、社会の調和と可能性は私たち一人ひとりの日々の選択にかかっているのだと挑発する。アートを通じて人間とは何か、世界とは何かと問いかける監督自身が、「ザ・スクエア」というアート・プロジェクトのアーティストだった。=2018年05月02日西日本新聞朝刊掲載分より筆者本人により一部追記=

 

「ザ・スクエア 思いやりの聖域」

配給:トランスフォーマー
監督・脚本:リューベン・オストルンド『フレンチアルプスで起きたこと』
製作:エリック・ヘルメンドルフ『フレンチアルプスで起きたこと』、フィリップ・ボベール『散歩する惑星』
撮影:フレドリック・ウェンツェル『フレンチアルプスで起きたこと』
出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー他
2017年 / スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク合作 / 英語、スウェーデン語 / 151分 / DCP / カラー / ビスタ / 5.1ch /原題:THE SQUARE /日本語字幕:石田泰子
後援:スウェーデン大使館、デンマーク大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
公式ホームページ:http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/
KBCシネマにて公開中!

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