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旅する印象派(3)モネ 時代先取った大型睡蓮【連載記事】

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アルトネ編集部
2018/05/29
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 パリ中心部と郊外を結ぶ列車は、1837年に開業したサン・ラザール駅を発着する。27番ホームまである幅広な構造や特徴的な三角形の屋根は、印象派を代表するクロード・モネ(1840~1926)が描いた当時の面影を残す。
 早朝、通勤客や旅行者で混雑する駅の売店でパンを買い、列車に乗った。50分ほど揺られ、ヴェルノン駅でバスに乗り換える。牧草地や畑が広がる田舎道をしばらく走ると、印象派を離れたモネが1883年から亡くなるまで暮らしたジヴェルニーに着く。自宅と庭園が今も残る。
 2階建ての家の前に、色とりどりの花が咲く。優しい風が通り抜け、花々をそっと揺らす。その風景は、抑揚のある点描で描かれたモネの絵画そのもの。さらに奥へ進むと、池がある。「ビューティフル!」。隣にいた観光客が声を弾ませた。近くの川の水を引き入れて造った池には睡蓮(すいれん)が浮かび、日本風の太鼓橋が架かる。周りのしだれ柳や菖蒲(しょうぶ)、竹も趣がある。

モネが日本風に整備した庭園。彼は亡くなるまで、季節や時間ごとに移り変わる水面を描き続けた=ジヴェルニー


 パリで2回目の万国博覧会が開かれたのは1867年。初めて正式参加した日本がジャポニスムを巻き起こす。モネやゴッホも影響を受け、日本文化を作品に取り入れた。黄色を基調としたモネの自宅食堂の壁には、彼の浮世絵コレクションが飾ってある。
 晩年、白内障に苦しんだモネは、刻々と移り変わっていく水面の光景を見つめながら、大小200点以上の睡蓮の池を描いた。
    
 パリのオランジュリー美術館には、連作「睡蓮」の大装飾画8点が飾られている。第1次世界大戦後、モネが平和の象徴として国に寄贈した。真っ白な展示室の天井から自然光が差し込み、時間帯や天候によって睡蓮は表情を変える。
 実は、ジヴェルニーのアトリエにも睡蓮の大装飾画が残されていた。モネの死から25年後の1951年、スイスのコレクター、エミール・ゲオルク・ビュールレ(1890~1956)が訪れて大装飾画2点を購入、チューリヒ美術館に寄贈した。翌年には「睡蓮の池、緑の反映」を手に入れ、自宅に飾った。
 縦2メートル、横4メートルの大画面。睡蓮が浮かぶ池に映るのは、しだれ柳だろうか。水面が揺らぎ、幻想的な世界観に引き込まれる。間近で見ると、筆触は強く、花々は太線でグルグルと描かれている。「人を包み込むような体感する芸術で、抽象表現に接続していく」と国立新美術館(東京)の山田由佳子主任研究員は言う。
 大装飾画は制作時に高い評価を得られず、値段も額装した風景画の半分程度だったという。やがて抽象表現が盛んになった米国で脚光を浴びるが、それ以前にビュールレは大装飾画の価値に気づいていた。
   

クロード・モネ《睡蓮の池、緑の反映》1920-26年
©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland) Photo: SIK-ISEA, Zurich 


 ドイツ南西部で生まれたビュールレは23歳の時、旅行で訪れたベルリンのナショナル・ギャラリーで初めて印象派作品を目にした。あまりに前衛的だった印象派は、当時のドイツでも物議を醸していたという。学生時代に美術史を学んだビュールレも強烈な印象を受け、そして魅了された。後に印象派との出会いを「その瞬間に石が水面を打った」と回顧している。
 23年後の1936年、実業家になったビュールレは、ルノワールやドガらの作品4点を初めて買った。前線で戦っ
た第1次世界大戦を生き抜き、ようやく美術に情熱を燃やす。ただ、やみくもに絵を買ったわけではない。「彼は自分の目で見てからでなければ、作品を購入しなかった」とコレクションを所蔵する財団のルーカス・グルーア館長は話す。最も精力的に収集した51~56年に全作品の75%を入手したという。
 失敗も経験した。レンブラントの自画像として購入した作品が、後に贋作(がんさく)と判明。その3年後にも、ゴッホの自画像が偽物であることが分かった。孫のクリスチャン・ビュールレさんは、チューリヒにあるオフィスでこう語った。「コレクターとしては(失敗は)つきもの。客観的に見ても祖父の審美眼は確かだった」。壁にはセザンヌやモネ、ピサロらの絵が飾られていた。
 10年前に起きた強奪事件が原因で、ビュールレのコレクションはチューリヒ美術館に移される。同館の展示室には「睡蓮の池、緑の反映」が加わり、大装飾画3点がそろう。オランジュリー美術館をほうふつさせる空間は、コレクター・ビュールレの先見性も物語るだろう。(野村大輔)=5月27日西日本新聞朝刊に掲載=

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