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(後編)人の喜びが、自分の喜びへとつながる。現代美術作家、オーギカナエさん【インタビュー】

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木下貴子
2022/11/10
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東京から拠点を福岡に移して26年。さまざまな表現で作品発表、ワークショップなどを行ってきたオーギカナエさん。後編では、近年の表現活動についてのお話を中心に紹介します。
前編はこちらからどうぞ。

オーギカナエさん

 オーギさんの場合、作品表現もワークショップ内容も、時と場所によって変容する。だが、ここ数年、本人の中で続いている、あるいはつながっているといえる表現活動が2つある。3月に開いた個展「永遠はなくてもつなぐことはできるsmile∞torus」でも展開された「スマイルの旅プロジェクト」(2017年〜)と「トーラス(円環)」(2020年〜)だ。

 「スマイルの旅プロジェクト」を始めたきっかけは、スウェーデンで開催された野外アート展「OpenART Biennale 2017」だったという。「開催地・オレブロ市の街中を使って、来場者とコミュニケーションができる作品を考えてほしいとご依頼いただきました」とオーギさん。「最初は市役所の屋上からスマイルのオブジェがニコニコしながらみんなを見ているという作品にしたかったのですが、強風もあるし無理って断わられて。じゃあ、地上に置く形で考えようと。それで、下の広場での展示ならみんな中に入りたいよねって思って内部を部屋のようにし、部屋ができたならそこでお茶飲みたいやんって思って。訪れた人たちが喜ぶかなって、抹茶をたてて中で出したことが、その後に続く『スマイル茶会』のスタートになりました」。

 

《mobile smile tea room》2017年(「OpenART Biennale 2017」、スウェーデン)での展示風景より。巨大なイエローの茶室は通称「スマイル」。「スウェーデンって夏が短くて、みんな太陽の光を楽しみにしているんです。太陽の光が感じられるような作品にしたく、黄色にしました」とオーギさん

 

訪れた人に抹茶を振る舞うオーギさん(右端)


 「OpenARTでの展示は自分自身も面白かったし、周りもとても面白がってくれ、『これ、代表作になるんじゃない?』と言われたこともあり、いろんなところでお茶会をする『スマイルの旅プロジェクト』の発想が生まれました」。スウェーデンから「スマイル」をもって帰るには費用がかかりすぎるため、金沢を舞台に2018年に行われた第2弾のプロジェクトの際に新しく制作し、その後、広島や久留米、中国・重慶などでプロジェクトを展開。茶室内での開催のみならず、お茶セットをコンパクトに運べる「スマイル旅箪笥」や「スマイルリュック」を考案し、いろいろな展覧会やイベントにおいて「モバイル茶会」と題した簡易的なお茶会も開催している。

 

「オーギカナエ展 永遠はなくてもつなぐことはできる smile∞torus」会期中に行った「桜を探して〜スマイル散歩茶会〜」の様子(3月19日・20日、福岡城)。左)ゆず茶の準備をするオーギさんと藤丸さん、おしゃべりをしながらイエローの椅子に座って待つ参加者たち/右)スマイルふわふわせんべいと、拳の花の蕾を模した干菓子
撮影:とうどう美由紀

 

 「スマイルの旅プロジェクト」では関連グッズも多く手がけている。「スマイル」をモチーフにした、ブローチ、手ぬぐい、抹茶碗、防災グッズなどのオリジナルグッズを作り、販売している。「家に持って帰って、それを見たら楽しかったときの気分を思い出してもらったり、疲れたときに『スマイル』を見るとほっと脱力してもらったり。とにかく、作品のかけらをモバイルしてもらえるといいなと思いながら作っています」。

   

左)あなたを守るスマイルキーホルダーケース。中にはいざという時に役に立つ、呼笛とledライトが入っている/右)中国・重慶の展覧会の時に作った竹とスマイルをモチーフにした手拭。上に乗っているのは陶製のスマイルブローチ

 「トーラス(円環)」をテーマに平面作品を描くようになったのは、2020年のこと。金沢市民芸術村から、牛嶋さんとのユニット「ヤポッカ」で展覧会をやってもらえないかと声がかかった。「牛嶋と2人で、コロナ禍でコミュニケーションが分断されているから、なんとかつなぎたいよねって話していたら、彼がカミオカンデ(ニュートリノ観測装置)について語り始めて。カミオカンデで素粒子を観測したら、マイナスのエネルギーよりもプラスのエネルギーの方が多いって感知されたそうなんです。それってすごいことだよね、みんなやっぱりどんな時でも希望をもちたいし、植物が陽の光に向かうように人間も何があってもいい方向に行きたいし、そうやって何かを見つけるかもしれないから、そうありたいねって2人で話して。じゃあそれを作品にするにはどうしたらいいかってなったときに、トーラスの話題が出て。トーラス=循環、つまり『つながる』ですよね。人間自身もトーラスのエネルギーをもっているといわれているし、そういうつなぐものをテーマに、牛嶋は輪の作品を作り、私もトーラスを絵に描いてみました」。

 金沢市民芸術村ではグリーンのトーラスの平面作品を50枚描いた。「グリーンを描いたら、次はピンクとかパープル、オレンジとかほしいなって思って」と展示を終え久留米に戻り、50枚を描き上げた。合わせて100枚の作品を翌2021年のオープンスタジオで披露し、その後もオーギさんはトーラスをテーマに描き続け、3月のエウレカでの個展でも新作で多くのトーラスの平面作品を発表した。
 


 

トーラスをテーマに描いた作品群。以前は1つのトーラスを描いていたが、最新作では2つ以上のトーラスへと変化していた
「オーギカナエ展 永遠はなくてもつなぐことはできる smile∞torus」会場風景より

 「スマイルの旅プロジェクト」と「トーラス」は今後も続けたいと意欲的なオーギさん。「2つともまったくの別物とは思ってなく、同時に何かにつなげたり、別々でも何かやっていけたらいいなと思います。もちろん『ヤポッカ』も『ウシジマケ』も継続してやりますよ」。それを聞いて、これからも見る人を気持ち良くしてくれる作品を期待しているとの感想を伝えると、「そう言ってくれる人たちがいるから、本当にこれまでやれてきたという感じです。福岡にきて、ここにアートが好きな人たちの世界がちゃんとあって。だからこそ、アーティスト活動を続けてこられました」と、弾けるような笑顔を見せてくれた。

【インフォメーション】
オーギさんは現在、ウシジマケの活動として福岡市中央区六本松の「Art House 88」にて、マイクロレジデンスプロジェクト「ウシジマケ六本松にイル」を開催中。週1、2回オープンして、滞在制作や展示、ワークショップ、パフォーマンスなどを行っています(12月下旬まで)。また、オーギさんの作品やアートグッズは、ARTNE STORE ONLINEにて購入できます。

オーギさんの作品購入はコチラ

プロフィール
 
オーギカナエ(仰木香苗)
1963年佐賀県唐津市生まれ、福岡県久留米市在住。1984年武蔵野美術短期大学美術家油絵専攻卒業後、東京を中心に大型インスタレーションを制作発表。1996年に活動拠点を福岡に移し、サイトスペシフィックな作品や舞台美術、ワークショップなどを手がけ、国内外にて活躍。子どもの美術活動「手で考える」や、現代美術作家・牛嶋均とのユニット「YAPPOTUKA(ヤポッカ)」、家族で表現活動する「ウシジマケ」なども展開している。
公式ウェブサイト
https://www.ohgikanae-works.com/

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