特別展
皇室の名宝
―皇室と九州をむすぶ美―
2021/07/20(火) 〜 2021/08/29(日)
09:30 〜 17:00
九州国立博物館
秋吉真由美 2021/08/11 |
九州国立博物館(福岡県太宰府市)で開催中の特別展「皇室の名宝 ―皇室と九州をむすぶ美―」。開催を記念して、宮内庁三の丸尚蔵館・主任研究官の岡本隆志さんと沈壽官窯十五代・陶芸家の沈壽官さんによる記念対談「やきもの王国・九州と近代の皇室」が開かれました。
特別展「皇室の名宝 ―皇室と九州をむすぶ美―」の会場レポートはこちら
宮内庁三の丸尚蔵館は平成5(1993)年11月に開館。「皇室に代々受け継がれた美術品のほか、故秩父宮妃のご遺贈品、香淳皇后のご遺品、故高松宮妃のご遺贈品、三笠宮家のご寄贈品が加わり、約9,800点を収蔵しています」と岡本さん。
宮内省は、明治23(1890)年に美術工芸家の技術の継承を目的に帝室技芸員制度を発足。会場には、20人の帝室技芸員の見事な作品が展示されています。「人間国宝とよく比べられますが、人間国宝は昭和30年から現在までの65年の歴史の中で陶芸家では38名が認定されています。一方、帝室技芸員は明治23年から昭和19年の約55年の間で陶芸家はたったの5人しか任命されておらず、非常に限られた方が任命されたものでした」
会場でも展示されている、帝室技芸員に明治26(1893)年に任命された京都の三代清風與平作の「旭彩山桜図花瓶(きょくさいやまざくらずかびん)」をピックアップ。
「ピンクの地肌に浮彫で桜を施したきれいな作品ですが、本居宣長の『敷島の歌』をモチーフに作った作品ではないかと考えられます。このように一つの花瓶の中に歌の意味を込められたりしているのです」
十二代沈壽官の名品に脱帽
繊細で煌びやか、会場でも多くの人がじっくりと鑑賞している様子が見られた「色絵金彩菊貼付花瓶(いろえきんさいきくはりつけかびん)・色絵金彩菊貼付香炉(いろえきんさいきくはりつけこうろ)」は、薩摩焼の名工である十二代沈壽官によって制作されました。
籠目を彫った器体に一輪ずつ成形された菊花を貼り付け、色絵と金彩が施されています。「この3点の作品は、十二代沈壽官の作品の中でも極めて異色」と沈壽官さん。「これほど密で立体的、すきまなく色を使うといった装飾性を追求した作品はほかに知りません」
岡本さんによると「この花瓶と香炉は宮内庁にある資料を辿ると、花瓶が2対、香炉が2個契約されていたようです。用途は明治宮殿の装飾用で、明治33(1900)年5月10日、当時の皇太子(のちの大正天皇)のご結婚の式典で、明治宮殿の南溜の間に飾られたと記録が残っています」
「僕が見てもどうやって作ったんだろうと思う作品で、絶対挑まなきゃいけないものだろうと思います」と沈壽官さん。「菊の造形は、丸いボタンのようなものを作って、花びら一枚一枚はメスを入れて起こしていく作り方だと思います。薩摩焼は陶器ですから、濡れた状態でないと作業はできません。籠目を掘り、湿り気を持った状態で茎や葉の部分を貼り合わせて行くのでしょう」
展示では見られない貴重な底部の写真も紹介。「薩摩壽官製」「森田徳二郎作」の銘があります。
沈壽官さんは「十二代沈壽官という人は、『薩摩壽官製』として自分の名前も書きますが、細工職人の名前を書いていました。映画のエンドロールで監督だけでなく、カメラマンや俳優の名前を出すような感覚です。これを焼き物の世界で行っている人はあまり聞いたことがありません。職人のプライド、仲間を大切にした人なんだろうと思いますね」と話します。
「それぞれ大変な素晴らしい技術で作られた作品ばかりです。作られて100年近く経ち、ようやく九州で公開される作品もあります」と岡本さん。
特別展「皇室の名宝 ―皇室と九州をむすぶ美―」の開催は8月29日まで。職人の技術はもちろん、丁寧な仕事を間近に鑑賞できる貴重な機会です。ぜひ実物をご覧になってみてください。
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