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民藝展、テレンス・コンラン展にみる 暮らしの中の豊かさ――鞍田崇さん(哲学者)と中原慎一郎さん(コンランショップ・ジャパン社長)が考え、伝えてくれたこと

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アルトネ編集部
2025/04/01
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 3月20日(木・祝)、現在、福岡市博物館で開催中の「民藝 MINGEI-美は暮らしのなかにある」と4月19日より福岡市美術館で開催予定の「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」のコラボレーション企画として、哲学者で明治大准教授の鞍田崇さんと、株式会社コンランショップ・ジャパン社長の中原慎一郎さんを招いたトーク・イベントが開催されました。

(左)鞍田崇さん、(右)中原慎一郎さん

 1926年、柳宗悦・富本憲吉・河井寬次郎・濱田庄司の4人が「日本民藝美術館設立趣意書」を発表したことにはじまり、それ以後、展覧会の開催や日本民藝館の開館、調査や研究、制作等さまざまな活動を通して、日常の中にある美を見出していった民藝運動と、デザインが生活の質を向上させるということを信じ、イギリスの生活文化に大きな変革をもたらしたサー・テレンス・コンラン(1931-2020)の生涯。

 ふたつの活動は、「暮らし」や「生活」をキーワードに、今を生きる私たちにも「豊かさ」について考え、見直す契機を与えてくれると鞍田さんは言います。

 今なぜ、民藝やテレンス・コンランがフィーチャーされるのか――おふたりがそれぞれの活動に出会い、感じたこと、見つめてきたことをお話しくださる機会となりました。

 偶然と必然に導かれたかのようにユニークな鞍田さんと民藝との出会いが語られます。

「京都に住んでいた頃、その外観や門構えに他とは違う心惹かれる建物があるなと思っていました。ある日、その家の中が見えたときに、おばあさんが倒れている!と。結局、昼寝をしていただけだったのですが、その人が河井寬次郎のお弟子さん、上田恒次さんのご家族だったのです。それから交流がはじまり、民藝を知り、考えていくことになりました。」(鞍田)

 一方、2022年から株式会社コンランショップ・ジャパン代表を務められている中原慎一郎さんが、その存在を知ったのは20歳のとき。当時、大学生で鹿児島のアンティークショップでアルバイトしていた中原さんが、オーナーとロンドンに買い付けに行き、はじめて入ったのがザ・コンランショップだったそうです。

「今まで見たことがないようなスタイルのお店でした。家具のディスプレイがあり、その一方で、花が売られていたり、オイスターバーがある。物量、ディスプレイ、レイアウトと、その斬新なスタイルとセンス、全てに衝撃を受けました。コンラン自身は‟ライフスタイルショップ“と呼ばれることを嫌ったようですが、生活全般を扱うセレクトショップとして世界中のデザイン界に影響を与えたお店でした。」

 若き日に洗礼を受けたショップ体験があり、現在、その店を日本において手掛けていらっしゃるという中原さんが2年以上の準備期間を経て展開されるのが、4月19日に福岡市美術館で開幕を迎える展覧会「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」です。

 学生時代にはテキスタイルデザインを学び、第二次大戦後、デザインの可能性を信じ、ショップの経営、プロダクトデザイン、レストラン事業、出版、街の開発…と様々な領域で、デザインによって変革を推進していったテレンス・コンランの仕事が紹介されます。

「お店という場を通じて変えていくということを行なった人でした。関わる人も自分たちもすべての人がワクワクするような場をつくるのがとても上手かったんだと思います。」(中原さん)

 中原さんの言葉で伝えられるコンランの姿は、クリエイティブの力でコンランショップ・ジャパンを展開されている中原さんの姿とも重なります。

 トークの終盤では、民藝やコンランの活動を通して、今おふたりが考える「豊かな暮らし」について言葉が交わされました。

 鞍田さんが見せてくださったのは、海水浴場でくつろぐ家族と仲間が映ったモノクロ写真。

「ここに写っているのは、河井寬次郎とその家族、そして、河井のお弟子さんで、現在、島根県の温泉津 (ゆのつ) で森山窯を開窯している森山雅夫さん。この写真を、森山さんご本人に見せていただいたとき、これまでイメージの中でしか存在していなかった河井寬次郎という人物が、動き出したように感じたんです。」

「人が出会い、人のために動き、そういった人と人とのつながり合いといったもの――血が通い、熱のこもったバトンが、次の世代、次の世代へと受け継がれるといったことが、豊かさなのではないでしょうか。」(鞍田さん)

 中原さんが見せてくれたのは、画家・ジョージア・オキーフが晩年を過ごしたというサンタフェの家の写真でした。

「ものを作るアーティストや、ものと関わって生活してきた人が年を重ね、どういった場を選び、暮らしていくのかということに関心があります。コンランも晩年は緑豊かな郊外のバートンコートという地に暮らし、自らを家具職人と言って、敷地内に家具工房を設置し、いつでもものづくりのができる環境で生活を送っていました。‟極上のふつう”ということを考えています。」(中原さん)

「民藝 MINGEI-美は暮らしのなかにある」は福岡市博物館で4月6日(日)まで、「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」は福岡市美術館で4月19日(土)からの開催となります。

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