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【コラム】古びず、奥深い「民藝」 福岡市博物館で4月6日まで展示 衣食住に機能性と美

2025/02/28 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 思想家の柳宗悦は約100年前、日常使いの品々に「用の美」を見いだし、生活の中に美があると説いた。無名の職人の手仕事から生まれたそんな民藝(民衆的工藝)を紹介する展覧会が福岡市博物館(同市早良区)で開かれている。会場に並ぶのは機能性だけでなく、デザイン性も高いものばかり。つい見入って自分の部屋に並んだ光景を想像してしまう。

 柳の思想は民藝運動として発展し、1936年には「日本民藝館」(東京)が開設された。本展は同館の所蔵品を中心に、約150件を展示する。「衣・食・住」に分け、産地も時代も異なる民藝を一つずつ紹介するコーナーではアンティークな品々に目を引かれた。

 例えば「衣」のコーナーでは、着物の上に羽織る柔らかな風合いの「紬(つむぎ)ショール」が気になった。30年頃に京都で作られたもので、淡いオレンジ色に水色のモダンな配色が着物だけでなく洋服にも合いそうだ。青森では刺し子が施された衣類が目立つ。保温性と耐久性を保つためで、土地の風土に合った物が生み出されていたことを物語る。

 「食」で目につくのは、会場の明かりに照らされてできたチェック模様の影が幻想的な1930~40年代の竹製の「茶碗籠」。洗った後の茶碗を入れてもいいように、水に強い竹を編み上げている。今ではプラスチック製の水切り籠などに置き換わるのだろう。生活の中で脇役のような存在にも何とも言えない気品が漂う。
「住」のコーナーには「花文照明」が天井からつるされていた。金工の照明器具は、シンプルな線で表現された花の模様に素朴な味わいがある。

影が幻想的な竹製の茶碗籠(写真左)
「花文照明」(写真右上)など素朴な味わいの照明器具もある

 展示の最後にはセレクトショップ「ビームス」の元バイヤーが国内外から集めたインテリアを、現代の生活空間をイメージして飾ったコーナーがある。久留米絣(がすり)のタペストリーやダイニングテーブル、器など、民藝がそばにある暮らしを来場者がよりリアルに想像できる。

 わら製のまるっとしたフォルムが愛らしい鶏卵入れ、花形の刃がおしゃれな上に握りやすさが考慮されたはさみなど、会場には他にも機能性と美を引き立てた生活用具が並び、その手仕事の奥深さに心を奪われた。美しくてかわいらしいデザインの品々は古びることなく、若い世代にも憧れを抱かせる。

 効率化を求める一方、ライフスタイルの見直しや消費、環境への意識も変化する今、民藝の精神は暮らしのスタンダードになりつつある。 (丸田みずほ)

 ◇展覧会「民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある」は4月6日まで。一般1600円など。

=(3月17日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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