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【ARTNEレビュー】佐賀県立美術館『ホキ美術館名品展』|リアリズムの先にあるもの

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アルトネ編集部
2017/04/18
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生島 浩 「5:55」2007-2010年
生島 浩 「5:55」2007-2010年

佐賀県立美術館にて5月14日まで『ホキ美術館名品展』が開かれている。ホキ美術館は日本初の写実絵画専門館として2010年千葉市に開館。現在約450点の収蔵品から70点が本展で紹介されている。

どう見れば良いのか分からないと敬遠されがちな抽象絵画に比べ、一般に写実絵画は分かりやすく人気も高い。

私は美術に「分からなさ」を期待するところがある。作者の考えや第三者の評論を参照しつつ、分からないものが少しずつ分かり、見えてなかったものが少しずつ見えてくるプロセスが楽しい。

さて、分かりやすいはずのホキ美術館名品展、私は初日に出かけたのだが、会場を一巡して、あまりにも分からなくて自分でも驚いた。いや、何が描かれているかはもちろん分かる。筆遣い、色遣い、画面構成、仕上げの精巧さにいたく感心し、純粋に感覚的な歓びに浸ったのも確かだ。こんなに心を開いて作品世界に浸って大丈夫かしらと感じつつ、本展ではやはり眼の歓びの誘惑に抗えず、フルオープンマインドで存分に堪能した。

その上で私が分からなかったのは「私達はそこに何を読み取れるのか」である。私は本展出品作家の一人、小木曽誠氏にたくさん本を借り、画家達の言葉を紐解いた。彼等の多くが写実は手段であり目的ではないと語っている。目の前のものに潜む美を抽出し、絵画空間の中で理想的な美へと昇華させていく。その姿勢はリアリズム=現実主義というよりもイデアリズム=理想主義といえるだろう。彼等は現実をありのままに写し取るリアリストなのではなく、筆先から理想の美を紡ぎだすイデアリストである。だからこそ多くの人を魅了してやまないのだろう。彼等の作品に私達が見出すものは現実世界のリアルではなくイデアなのだ。

ちなみに佐賀は歴史的に百武兼行、久米桂一郎、岡田三郎助などの写実画家を輩出している。禁欲的に理想を追求する人物を醸成しやすい土地柄なのだろうか。

 

花田 伸一(はなだ・しんいち)

キュレーター/佐賀大学芸術地域デザイン学部准教授

1972年福岡市生まれ。佐賀市在住。北九州市立美術館、フリーを経て2016年より現職。主な企画『6th北九州ビエンナーレ~ことのはじまり』『千草ホテル中庭PROJECT』『ながさきアートの苗プロジェクト2010 in 伊王島』『街じゅうアート in 北九州2012 ART FOR SHARE』『ちくごアートファーム計画』。企画協力『第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014』『釜山ビエンナーレ2014特別展』他。

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