日伊国交樹立150周年記念
世界遺産 ポンペイの壁画展
2017/04/15(土) 〜 2017/06/18(日)
09:30 〜 17:30
福岡市博物館
木下貴子 2017/05/02 |
どんなに医学が発展しようとも、人は長くてもせいぜい90~100年でこの世を去る。命なき物質も一部特殊な環境(国家、自治体レベル)で保管されているものを除いては、放っておけば数十年とはいわないが、百年も超えれば朽ち果てる。ましてや2000年ともなると……。
福岡市博物館にて6月18日(日)まで開催中の「世界遺産 ポンペイの壁画展」では、西暦79年に起きたヴィスヴィオ火山の大噴火により、一昼夜にして埋没した南イタリアの古代都市ポンペイとその周辺から発見された壁画が展示されている。およそ2000年前に描かれた壁画と、時空を越えて対面できるというのだから興奮冷めやらない。期待に胸弾ませ、会場に足を踏み入れた。
初っ端から圧倒される。スケールが大きいからというわけではない。実際、最初に展示されている壁画は、ピースがばらばらだったものをパズルのように繋ぎ合わせたもので、むしろ欠損部分の方が多いといえる。しかし、そこに描きだされた緻密な模様や人物、豊かな色使いに目は奪われるばかり。その向いに展示された《赤い建築を描いた壁面装飾》という壁画に至っては、この時代ですでに遠近法が確立されていることまで見受けられる。こんなにも高い技術の絵画が、2000年前にすでに描かれているという事実を目の当たりにした、驚愕ゆえの圧倒なのだ。同時代の日本は、そう、まだ弥生時代なのだから。恐るべし、古代ローマ文明。
展覧会は4章からなり「第1章 建築と風景」では、時代とともに変遷した壁画様式(第1~4様式)についても知ることができる。なお、会場は全作品撮影が可能! 気になる部分や全体像など、自分の好きな視点でこの展覧会を記録、あるいはポンペイの地に行った気分で記念に撮影して持ち帰ろう。
当時の絵師たちの画力に驚き、どうやってこんなふうに描くのだろう、色はどのように出すのだろうと疑問に思っていた矢先、壁画制作に使用されていた道具や顔料が展示されていた。まるで観客の心を読んでいるかのような会場構成。なかなかニクイ。
「第2章 日常の生活」、「第3章 神話」、「第4章 神々と信仰」と続き、壁画の総展示数は約80点!壁画を通して、当時の生活様式、ステータス、信仰など当時の様子が浮き彫りにされるところも面白い。なかでも、とりわけ筆者が興味を抱いたのが「第3章 神話」だ。ストーリー性のある神話画が壁画に取り入れられているのだが、この時代、裕福なローマ人は必須の教養として競うようにギリシャ文化を学んでいたそうで、壁画で表された神話画はステータス・シンボルとしての機能もあったと考えられるという。その絵の美しさとは裏腹になんとも人間臭い話ではあるが、そこにこそ人間が生みだしたというリアリティを感じるのだ。また神話画は、時間が許せば解説までじっくりと読んでほしい。絵本のようなストーリー性も楽しめる。
会場では、カルミニアーノ地区で発見された農園別荘の食堂を再現。これは現地に舞い降りたような気分に! 壁画にはギリシャ神話に登場するぶどう酒の神ディオニュソスなどが描かれている。
この時代から選挙と政治があったことにも、また驚く。
こちらは何ともいえない表情で、かなり心動かされた。
そして注目はやはり今展の目玉である、本邦初公開であり、さらには海を渡って初めて持ちだされたという《赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス》を含む、エルコラーノのアウグステウムで発掘された壁画たちだ。皇帝崇拝の場とみなされている聖域から発見された壁画は、スケール、完成度ともに格別だ。神々しさも伴う3点の壁画を前にすると、厳かな気持ちになる。できるなら朝イチの空いている時間を狙って、静かにこの壁画と対峙してほしい。
歴史的資料からなる展覧会であるが、今展は、極めて美術的な視点で楽しめるのも大きな魅力だ。2000年前に描かれた「絵」として純粋に感じ入る。会場のトリビアコーナーの解説パネルによると、壁画が朽ちる事なく今なお色鮮やかに残るのは、町を埋め尽くした火山灰が乾燥材の役目をはたして壁画が傷むのを食い止めたからだという。ポンペイの歴史は悲劇だが、2000年後の世界に奇跡をもたらした。歴史は変える事はできない。だからこそ、いまはただただ、この奇跡を素直にじっくりとこの目に焼き付けたい。
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
九州国立博物館
2024/10/31(木) 〜 2024/11/25(月)
大丸福岡天神店 本館8階催場
2024/09/07(土) 〜 2024/11/24(日)
つなぎ美術館
2024/10/26(土) 〜 2024/12/01(日)
九州芸文館