闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s-2010s
2018/11/23(金) 〜 2019/01/20(日)
10:00 〜 20:00
福岡アジア美術館
木下貴子 2018/12/23 |
絵画や彫刻、インスタレーションなど他の美術表現と違って、版画は大量に刷ることができる。なかでも木版画は、大げさな機材はいらず、木の板と彫刻刀、墨さえあれば誰でも、富裕層の作家でなくとも、あるいは作家でさえなくとも簡単に作れるものであり、他の美術表現と比べてもマイナーな歴史をたどる。そんな木版画の歴史を、しかもアジアの広域の地域にわたって紹介する展覧会はかつてなかっただろう。美術界で密かに熱い話題となっている福岡アジア美術館(あじび)で開催中(1月20日(日)まで)の「闇に刻む光 アジアの木版画運動1930s-2010s」を見てきた。
最近、記念撮影スポットを設ける美術展は珍しくなくなったが、まさかこの展覧会でもそれがあるとは。それも、近代中国における新興版画の開拓者である魯迅が企画した木版画講習会の参加者との記念写真が使われている。なかなか渋い。予想の斜め上をいく撮影スポットに、この先、ただならぬ展覧会が待ち受けていることを予感する。
タイトルにあるように、1930年代から近年までの、アジア各地での木版画に焦点を当てた展覧会。年代も範囲も広く、内容も10章にわたって構成される。しかも出展数は約340点! 一般的な美術展では多くても150点ほどの展示と聞くから、密度がかなり濃い。その展示のはじまり、1章「1930s上海:ヨーロッパの木版画、中国で紹介される」では魯迅が上海で紹介し、中国の新興木版画運動の素地となった、ケーテ・コルヴィッツほかヨーロッパ各地の近代木版画が紹介されている。
続く2章「1930s 中国と日本:版画運動が発展、美術の大衆化」。魯迅の企画した木版画講習会が開かれ、日常生活の不安や社会に対する怒りを表現する若い中国作家らによって、中国の木版画運動は各地に拡大していく。この頃、日本ではプロレタリア美術運動が展開し、印刷による美術の大衆化が模索された。まさしくお金がなくて絵の具が買えなくても、板と彫刻刀さえあれば大量に刷れる木版画のポテンシャルがここで発揮されることになる。
会場ではおびただしい数の出版物も展示されている。刷って綴じて出版されることで、木版画が情報伝達のためのメディアとなった。
3章「1940s-50s 日本:美術の民主化、中国版画ブーム」では、これまであまりフィーチャーされてこなかった日本の木版画運動の歴史を紐解き、深く掘り下げられている。北関東を中心に木版画運動が盛り上がり、日本各地で200回を超える中国木版画展が開かれた。また、1950年以降は、職場・地域の文化サークルで労働者・主婦・子どもを含む幅広い層により木版画が制作されるようになったという。わずか40秒であるが、1947年に茨城県大子(だいご)町で行われた「木刻まつり」ワークショップの様子が映しだされたニュース映像から、当時の木版画ブームの様子が垣間見える。
日本最初の公害事件とされる足尾鉱毒事件を題材にした、小口一郎の《野に叫ぶ人々》は必見であり、必読だ。中国の「連環画」形式を使った版画と、解説文の構成からなるこの作品は、複製版画集や映画にもなり一般大衆に届けられた。
会場では、《野に叫ぶ人々》(篠崎隆監督作)の映画も上映されている。
4章から8章ではそれぞれに、ベンガル(現インド東部とバングラデシュ)、インドネシア、シンガポール、ベトナム、フィリピンの木版画が紹介される。これら南アジア、東南アジアの木版画は、中国、日本、そして9章で紹介される韓国という東アジアのような持続的かつ同時多発的な木版画運動とは異なるが、広範囲にわたって俯瞰的に見ることで、より木版画運動が浮き彫りになってくる。
その中にはわずかだが日常が描写されたものもあり、ちょっと心がなごむ。
木版画だらけのなか、異彩を放っていたのがこちら。あじびをよく知る方にはお馴染みのこの絵画がなぜ本展に? つづきは次ページへ。
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