江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
山出淳也 2021/02/18 |
セリザワさん
僕は昔からセリザワさんのファンだった。
彼が運営する新宿のアートスペースは他の場所とは違っていた。何が違うのか20代の僕にはわからなかったが、ただただそこは眩(まぶ)しくて、いつだって自由を感じることができた。
ある時、セリザワさんは中国にいた。蔡國強さんによるアートプロジェクトを実現するためにだ。これは万里の長城の終点を起点として1万メートルにわたり導火線を敷いて、それに火をつけ、1万メートルの「炎と硝煙の長城」を出現させるというもの。奇跡的な瞬間、その一瞬のために全てを費やす。残るものは、その場を共にした人々の記憶の中。なんてかっこいいんだと思った。
セリザワさんは翻訳家でもある。バックミンスター・フラーの『宇宙船地球号操縦マニュアル』は彼が手がけた。地球を宇宙船に見立て、この宇宙船には外からの供給がなく資源も限られていると警鐘を鳴らした。人はなぜ移動をするのかという壮大なテーマを掲げた紀行文、ブルース・チャトウィンの『パタゴニア』もそう。セリザワさんは旅に魅せられている、それも自由な。
実際にセリザワさんに会ったのは2005年だった。前橋からの帰り道、僕たちは横浜で少しの時間、立ち話をした。僕はセリザワさんに別府に来てほしいと伝えた。そして翌年、フェリーに乗ってセリザワさんは別府市にやってきた。僕はセリザワさんに「数年先に開催を目指している芸術祭のディレクターとして関わってほしい」とお願いした。海辺でタバコを吸いながら遠くを見つめ、「おれ、やるよ」と条件も何も聞かず引き受けてくれた。この日から、僕たちの旅は始まった。
そうそう。チャトウィンといえば『ソングライン』という大好きな本がある。オーストラリアの先住民アボリジニは、大陸を旅する際に見たもの感じたことを歌に織り込み、継承していく、そんな歌の道をたどる紀行文。翻訳者はマリコさんという。セリザワさんと会って数年たち、2人が夫婦だと知った。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(12月2日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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