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遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<33> 【連載】仮想空間の「メガ」現象 増える公募展への応募 配信型の講演も大盛況

2021/02/27 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 前回に触れた「平成美術 うたかたと瓦礫(デブリ)」展(京都市京セラ美術館)は、依然として緊急事態宣言下で開催されている。当初、2月7日までとされていた期間が1カ月延長されたためだ。昨年の春に出された最初の宣言のときのように展示自体が閉まることはないが、引き続き注意深く感染拡大防止対策を施したうえで「密」を避けなければならないのは言うまでもない。だが、このような事態のもとで展示を見ると、平成の美術が非常に密な環境のなかで営まれていたことが、あらためて見えてくる。

 それは本展が、平成の美術のうちでもアーティストらによる集合的な活動に焦点を当てているからだけではない。平成という時代そのものが、ヒトやモノを可能な限り障壁なく、同時に、なおかつ大量に移動、集合、動員させることを活力にしていたからにほかならない。それがグローバリズムということでもあるなら、そのようななかで営まれたアートもまた、時代の強みを活(い)かした活動ほど、どこかで密な環境を呼び寄せていたのだ。ビエンナーレやトリエンナーレ、芸術祭やアートフェアが拡大の一途を辿(たど)り、単独の書き手による批評の力が後退したことにも、それは影を落としている。

現代美術作家100人のインタビュー映像を配信しながら作家の作品展示とともにアーカイブを蓄積していくプロジェクトDOMMUNE《THE 100 JAPANESE CONTEMPORARY ARTISTS/season 6》2020年―2021年京都市京セラ美術館「平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ)1989–2019」展示風景 
Photo:Kioku Keizo

 けれども他方で、ネットのなかの仮想空間は以前にも増して「密」になっているように思われる。私は昨年、現代美術や写真界でよく知られた公募展の二つに審査員として関わったが、コロナ禍で当初、心配されていた応募者数の減少への懸念は、蓋(ふた)を開けてすぐに払拭(ふっしょく)された。むしろ増えていたのだ。後者に至っては、30年に及ぶ継続期間のなかで過去最高の数だった。

 いったい、なにが起きているのか。ネットを通じて応募することの手軽さだろうか。外出自粛期間に構想や制作のための時間が存外に取れたからだろうか。はたまた人に会ったり遠出したりすることが限られていることへの不満の捌(は)け口だろうか。はっきりしたことはわからない。けれども、これが私の関わったような公募展に限ったことでないのは、もはやあきらかだ。

 たとえば、講演会だ。現実のホールなどに人を集め講演をすることは、その会場の器としての物理的な定員に制約されている。どんな巨大なスタジアムにも、上限というものが存在する。他方、ネットのなかに原則定員はない。物理的な空間でないからだ。すると、これまでの催しの規模を超えて視聴のために人が集まるということが出てくる。感染拡大防止を大義とするならなおさらだ。昨年の末に上海で開幕した国際的なビエンナーレ展では、オープニングを飾る配信型の講演に、実に1200万人に及ぶ視聴者数がはじき出されたという。しかも地球のどこにいても参加が可能なのだ。密と言うより「メガ」と呼ぶべきこれらの仮想空間内の爆発的な現象は、これから私たちをいったいどこへと連れて行くのだろうか。(椹木野衣) 

=(2月11日付西日本新聞朝刊に掲載)=

 

椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。

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