九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  連載記事 ›  【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 3

【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 3

Thumb micro fa6a5588b3
藤浩志
2017/09/26
LINE はてなブックマーク facebook Twitter

記憶は捏造される

 時間には大きな罠(わな)がある。過去に遡(さかのぼ)るほど、時間の長さは圧縮されて記憶を作っている。10分前のことを振り返ると、それなりに詳細まで思い出して記録できるかもしれないが、昨日の同じ10分を記述しようとしても、それほど正確には覚えていない。1年前や10年前のことになると、よほど印象的な出来事か、何度も思い巡らして再生した記憶でないかぎりは覚えていない。もちろん子どもの頃見ていた天井の杉板の模様とか、階段を落ちてしまった時の落ちる感覚の記憶だとか、初めて食べたチーズ蒸しパンの感触だとか、なんでもない記憶が定着していることもある。問題なのはその時間の長さだ。子どもの頃、喘息(ぜんそく)で苦しんだ数時間、そしてそれが繰り返されていた10年という長い期間も、30年前のことになると時間の長さを持たない瞬間の積み重ねの記憶でしかない。
 人類学者にとって5千年と5万年との時間の経過はありえないぐらい違うし、宇宙物理学者は50億年という時間の長さを認識するために生涯をかけて努力するが、一般の生活者はその時間の長さをイメージすることは難しい。普通は一世代33年を認識するのがせいぜいで、2世代66年、3世代で99年、3世代続くと先祖代々と呼び、永遠かのように語ってしまう。それも問題だと思う。とにかく過去の時間の長さに無頓着だということだ。
 例えば30年前に瞬間的に出会い、衝撃を受けたと思っている記憶があるとする。しかし逆にそれを紐(ひも)解(と)くと、実は3年ぐらいの年月を経て、じわーっと意識が作られ、考えが熟成され、何かのきっかけでそれを語るようになり、それが記録されて記憶が捏造(ねつぞう)され、あたかも「その瞬間に閃(ひらめ)いた!」となることだってある。僕がここに綴(つづ)る多くは、おそらく編集され、捏造された記憶なのだと思う。そして今こうやって捏造された記憶が文字化された瞬間に、事実として定着してゆくのだろうな。おそろしいけど面白い。
(美術家。挿絵も筆者)=7月3日西日本新聞朝刊に掲載=

連載:地域と美術のすきまのやもり 一覧

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini a472c18760
終了間近

とりごえまり『名なしのこねこ』(アリス館刊)原画展

2025/04/05(土) 〜 2025/04/27(日)
合同会社書肆吾輩堂

Thumb mini fbef5d2295

映画「美術之鬼」完成披露上映会

2025/04/27(日)
北九州市立美術館 レクチャールーム

Thumb mini 199fb1a74c

挂甲の武人 国宝指定50周年記念/九州国立博物館開館20周年記念/放送100年/朝日新聞西部本社発刊90周年記念
特別展「はにわ」

2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
九州国立博物館

Thumb mini b371d37bba

吉田ヂロウ個展「グラファイト・ヴィジョンズ・アット・ハウス」

2025/04/23(水) 〜 2025/05/03(土)
HOUSE

Thumb mini b477954842

DESIGNS 永野護デザイン展

2025/04/05(土) 〜 2025/05/04(日)
福岡三越9階 三越ギャラリー

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Noimage
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<84> 【連載】開かれる世界 異常事態の渦中で 取り戻される日常

Thumb mini ba3135c76e
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<83> 【連載】コロナ禍の変化 国内の文化資源だけで 示唆に富んだ企画展も

Noimage
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<82> 【連載】ポスト・コロナの行方 深層には恐れや執着  「夢」の推移に注目を

Thumb mini c32a1e9f35
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<81> 【連載】政府の新指針 無意識の「風景」に マスクは定着したか

Noimage
連載記事

遮られる世界 パンデミックとアート 椹木野衣<80> 【連載】無形の「副反応」 震災の二次的被害同様 「関連死」はこれから?

特集記事をもっと見る