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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 3

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藤浩志
2017/09/26
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記憶は捏造される

 時間には大きな罠(わな)がある。過去に遡(さかのぼ)るほど、時間の長さは圧縮されて記憶を作っている。10分前のことを振り返ると、それなりに詳細まで思い出して記録できるかもしれないが、昨日の同じ10分を記述しようとしても、それほど正確には覚えていない。1年前や10年前のことになると、よほど印象的な出来事か、何度も思い巡らして再生した記憶でないかぎりは覚えていない。もちろん子どもの頃見ていた天井の杉板の模様とか、階段を落ちてしまった時の落ちる感覚の記憶だとか、初めて食べたチーズ蒸しパンの感触だとか、なんでもない記憶が定着していることもある。問題なのはその時間の長さだ。子どもの頃、喘息(ぜんそく)で苦しんだ数時間、そしてそれが繰り返されていた10年という長い期間も、30年前のことになると時間の長さを持たない瞬間の積み重ねの記憶でしかない。
 人類学者にとって5千年と5万年との時間の経過はありえないぐらい違うし、宇宙物理学者は50億年という時間の長さを認識するために生涯をかけて努力するが、一般の生活者はその時間の長さをイメージすることは難しい。普通は一世代33年を認識するのがせいぜいで、2世代66年、3世代で99年、3世代続くと先祖代々と呼び、永遠かのように語ってしまう。それも問題だと思う。とにかく過去の時間の長さに無頓着だということだ。
 例えば30年前に瞬間的に出会い、衝撃を受けたと思っている記憶があるとする。しかし逆にそれを紐(ひも)解(と)くと、実は3年ぐらいの年月を経て、じわーっと意識が作られ、考えが熟成され、何かのきっかけでそれを語るようになり、それが記録されて記憶が捏造(ねつぞう)され、あたかも「その瞬間に閃(ひらめ)いた!」となることだってある。僕がここに綴(つづ)る多くは、おそらく編集され、捏造された記憶なのだと思う。そして今こうやって捏造された記憶が文字化された瞬間に、事実として定着してゆくのだろうな。おそろしいけど面白い。
(美術家。挿絵も筆者)=7月3日西日本新聞朝刊に掲載=

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