江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2021/08/03 |
コロナ・パンデミックのもと、グローバル化の波に乗って拡大・拡張してきたアートが急激にドメスティック化し、そのことで逆説的に活況を呈し始めていることについては前回、述べた。他方、開幕までいよいよ秒読みとなった東京五輪を目前に控えた都心では、これに肩を並べるべく、過去に例を見ない規模のアート・プロジェクトが次々とお目見えしている。
先週7月17日からは、東京駅の丸の内口に建つ超高層ビル、丸ビルと新丸ビルの壁面を使って、高さ約150メートル、幅約35メートルに達する「東京大壁画」が登場した。横尾忠則、横尾美美の親子による競演で、それぞれが水と火をテーマとする。また、その前日の16日には、アートチーム「目」による、ビルにして6階~7階分にも及ぶバルーン仕立ての巨大な顔が突如として空に浮かぶ、やはりビッグ・プロジェクト「まさゆめ」が、代々木公園の上空で決行された。
これらは、単ににぎやかな添え物ではない。五輪憲章では、スポーツは単独で成り立つものではなく、文化との融合によってオリンピズムという哲学の次元にまで高められなければならない。世界選手権との最大の違いはここにある。五輪における文化プログラムの実施は、開催国にとって必須の義務なのだ。
だが、いずれも緊急事態宣言下での実施となったため、そのスケールに見合うだけの多くの人が目にするのは難しい。多くの人、というのはこの場合、本来であればこの時期に世界中から東京に集まってきていたであろう、海外からの来客も含む。つまり、結果的にこれらのプロジェクトもまた、その規模の大きさにもかかわらず、極めてドメスティックな性質のものとなっている。
さらに19日からは五輪の会場が集中する東京、神奈川、千葉、埼玉などの首都圏で、大規模な交通規制が始まった。五輪期間中に大会関係者の移動を円滑に行うことが目的で、都心での車や人の流れも大幅に制限されることになる。結果として私たちは、先のようなアートをめぐるビッグ・プロジェクトが行われても、報道や各種メディアを通じて間接的に目撃することになる。また、コロナ禍ではそれが望まれてもいる。
先日、ちょうど用事があり、都心の会場付近を歩いてみる機会を得た。まだ大規模交通規制の前だったが、要所で大規模なバリケードにより道が封鎖され、厳重な警備が始まっていた。通過できるのは、東京五輪のための統一されたユニホームを着て、首から認証のためのカードを下げた関係者に限られる。
その様子に私は、東日本大震災での東京電力福島第1原子力発電所のメルトダウン事故で入域が厳しく制限された、いわゆる帰還困難区域のバリケードをつい連想していた。それは放射能による被ばくや拡散を防ぐためで、今回の目的とは大きく違っている。だが、今回の都心での五輪のための封鎖もまた、ウイルスによる感染や拡散の抑制と無縁ではないはずだ。水際対策で危険性こそ大幅に減ったとは言え、テロリストの侵入もむろん阻止しなければならない。
放射能、ウイルス、テロリズム。私たちは依然として「目に見えない」、その意味で巨大なスペクタクル(=見せ物)の対極にある敵に分断され、規制され続けている。そこから浮かび上がる、東京でのスポーツと文化の融合による「目に見える」オリンピズムの哲学とは、いったいどのようなものなのだろう。(椹木野衣)
=(7月22日付西日本新聞朝刊に掲載)=
椹木野衣(さわらぎ・のい)
美術評論家、多摩美術大教授。1962年埼玉県生まれ。同志社大卒。著書に「日本・現代・美術」「反アート入門」「後美術論」「震美術論」など。
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