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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 4

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藤浩志
2017/09/28
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作家の態度と出会う​

 土門拳という写真家がいる。特に写真に興味があったわけでもなく、その作家について詳しい知識を持っていたわけでもない。鹿児島を代表する山形屋デパートの催事場で開かれていた土門拳の写真展「古寺巡礼」を偶然見に行き、大きな衝撃を受けた。
 国公立大学合格率の高さを誇る進学校で落ちこぼれて、現実から逃れるように美術部室に通い始めた時期で、まちの画材屋に通い、展覧会を見に行くという新しい行動パターンを見つけ、展覧会そのものが新鮮だったというのもある。高校入学祈願の為に梅ケ渕観音という磨崖仏を拝みに行き、その仏像の姿に心動かされていたという前準備もあった。土門拳の写真の向こうに存在している数々の仏像の表情に向き合い、感動し、涙を流した。おそらく初めての作品体験だったと思う。
 鹿児島では土門拳が撮影しているような木製の仏像を見たことがなかった。おそらく廃仏毀釈(きしゃく)運動が盛んな鹿児島だったので、僕が目にしてきたお寺はほとんどがコンクリート建築でその後京都に行くまで木製の寺や仏像を見なかったのだろう。とにかく感性が渇望していたのだと思う。そこに土門拳の撮影した古寺巡礼の仏像たちの表情が心に刺さった。
 なけなしのお金を集めて展覧会カタログを人生で初めて購入した。壁には土門拳本人が来てサイン会を行うという情報が掲示されていた。興味本位でその会場に再び足を運んだ。購入したカタログを抱えて人生初めてのサイン会の列に並ぶ。車椅子で現れた土門拳がカタログの裏表紙の全面に大きな筆で「拳」の文字を丁寧に気力を込めて書いてくれた。その姿にまた感動した。人生で初めて本物のアーティストの態度に出会った瞬間だった。
 もっと土門拳が見せてくれた世界の近くに暮らしたいと思った。進路を決めなければならない時期でもあったので、迷いなく京都へ行くことに決めた。心が動く方向に体が動いてしまった。 (美術家。挿絵も筆者)=7月4日西日本新聞朝刊に掲載=

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