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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 6

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藤浩志
2017/10/03
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太秦の超えてる存在​

 京都でどこにゆけばいいかと聞かれると迷わずお薦めするところが数カ所ある。三十三間堂の千手観音と二十八部衆と龍安寺の石庭、妙心寺法堂の狩野探幽の雲龍図、そして太秦にある広隆寺の弥勒菩薩(みろくぼさつ)半跏(はんか)思惟(しい)像だ。その寺院の宗教的・歴史的な知識については情けないくらいに全く知らない。しかしそこにある仏像と天井画、そして石庭は京都で暮らした学生時代から幾度となく向き合い、深い関係を築き、多くを学んできた。とりわけ広隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像の姿には心奪われ、近くのアパートに引っ越したほど。
 同世代の友人たちがアイドルを追っかけ、ポスターや写真集を集めるかのように、バイト代を拝観料につぎ込み、ポストカードを部屋に貼り、写真を持ち歩いた時期もあった。その昔、薄暗い宝物殿の中でスポットライトをかすかに浴びる弥勒菩薩の姿があまりにも神々しくて、抱きついてしまい、小指を破損させた若者もいたのだとか。この像に関して言えば、どんな写真でもその存在感を表現しているものはないように思えた。
 広隆寺に一歩踏み入れた瞬間から何やら空気が変わり、その宝物殿の持つ緊張感の中にあって優しく荘厳に存在していた。人間が木を彫刻して作り出したモノを超えて、そこには姿が存在している。僕が通い始めて数年してから宝物殿が改修され、展示方法が変わり、僕としては気に入らなかったが、そんなことを超えた存在であることは確かだと思う。
 ここの弥勒菩薩像の作者は知られていない。それが国内で作られたものなのか、あるいは大陸から渡ってきたものかもいろいろな仮説はあるものの謎は多い。彫刻の部第1号の国宝に指定されているが、国宝だから素晴らしいのではない。素晴らしい存在として人の心をとらえ続けてきた希少な彫刻なので国宝になったのだと思う。
芸術作品だからいいのだと勘違いしている人が多い。芸術だからいいのではない。常識を超えた存在だからこそ、芸術と呼ばれているのだ。
(美術家。挿絵も筆者)=7月6日西日本新聞朝刊に掲載=

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