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【連載】藤浩志 地域と美術のすきまのやもり 7

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藤浩志
2017/10/05
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妙心寺の龍を追いかける​

 京都の妙心寺にある狩野探幽の雲龍図、八方睨(にら)みの龍に初めて向き合ったとき、不思議な感覚に包まれた。
 広い妙心寺の敷地のほぼ中央に位置する大型の建造物、法堂(はっとう)の鉄の錠前のついた大きな木製の扉を、お坊さんがギリギリと音をたてて開け、中に案内してくれる。薄暗い部屋は思いのほか広々としてて高いところにある格子窓から光が入っている。その光に一瞬目がくらんだが、促されるままに天井に目をやって驚いた。
 大きな龍がこちらに襲いかかろうと向かってきている。部屋の入り口からその龍の視線を捉えながら中に入りぐるっと部屋を一周しようとするが、その龍はずっとこちらを睨み続けてくる。一瞬、龍が動いているかのように錯覚し、その場にしゃがみ込んだ。
 少し冷静になって改めて全体像を眺め、龍の全身像が描かれた水墨画であることを認識できた。1656年狩野探幽が55歳のときに8年かけて描き上げたとされる12メートル四方の天井画「雲龍図」がそこにある。いや、龍がそこにいる。その描写力と迫力に圧倒されながら部屋を半周し、帰り際にもう一度振り返りその龍を睨み返す。するとどうだろう。さっきまで襲いかかろうとしていた龍が逃げ去ろうとする姿に見えてくる。なんということだ。
 こちらに襲いかかろうとしたり、あるいは逃げ去ろうとしたり、ずっと睨み続けると動いているように見えたり、なぜそのように見えるのか謎が多かった。その謎を解明しようと何度も通ったが納得できず、それを模写し、模型まで作って解明しようとした。
 たまたま大学の制作展で10メートルの幅のある京都市美術館の天井を使えることになり、臈纈(ろうけつ)染めの技法で10メートル四方のカラフルな雲龍図の模写を行い、実際に天井に設置してみた。
 謎は色々(いろいろ)と解決できたものの、探幽にはとてもじゃないけど到達できない。
(美術家。挿絵も筆者)=7月7日西日本新聞朝刊に掲載=

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